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応援を「科学」する。サポーターが選手にできること

©iStockphoto.com/ PavelIvanov
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「サポーターはどのように振る舞うべきか」という、ある意味永遠の命題に挑む上で、データは出来る限り客観性を保つ助けになる。アルベルト・アインシュタインは「科学には偉大な美がある」と言った。科学は、サポーターのあり方を美として映し出してくれるのだろうか。 

サポーター論とは

 
 ざっくりと言えば、「スタジアムでフットボールを応援するファンは、このようにあるべきだ」というのがサポーター論というものだ。良く見る対立形としては、「海外の様に厳しい応援こそが選手を鼓舞し、甘えのないフットボールを作る。日本のスタジアムの甘さ」というようなものと「厳しい応援を押し付けない、ゆったりと出来る環境こそが日本のスタジアムの良さ。それを否定すべきではない」というようなものなのではないだろうか。これに関しては筆者にも言いたいことが多少はあるが、今回それは別に重要ではない。

 今回考えたいのは、「一体どんな応援が選手達のパフォーマンスを向上させるのか」というものだ。恐らく、「応援しているチームが負けてもいい」と思いながら、スタジアムに向かう人は少ないはずだ。「死んでも勝って欲しい!」と「勝ってくれたら嬉しい」で思いの強さに差はあるかもしれないが、その一点ではサポーターは共通している。では、どのような応援が選手に良い影響を与えるのか。「科学論文」を論拠にして、それを考えていきたい。 

社会学、脳科学から見た「応援」

  

Photo credit: Globalism Pictures via Visual Hunt / CC BY

 
 韓国の学者
Hyun-Woo Leeなどの研究によれば、応援という行動はグループ感情の一種に分類される。このグループ感情を共有することは、共同体の関係性を強める傾向がある。スタジアムにおいて「チームを共に応援し、ブーイングを送ること」はサポーターという集団を纏め上げることに繋がる。簡単に言いかえれば、サポーターとしてグループで感情を共有することによって、グループの結びつきは強まるのだ。脳科学の分野でも、スポーツ観戦がミラーニューロンと呼ばれる神経細胞を刺激することが知られている。このミラーニューロンは「ミラー()」という名の通り、「同一化して感情移入を行うことで、他者の感情を理解することを可能とする」ものだ。

 スポーツを観戦するという行為は、このミラーニューロンを刺激することで人々の行動に働きかけるものなのだ。チームを鼓舞するためにチャントなどを歌っている他のサポーターの動きを真似するのも、ミラーニューロンを働かせる行為の1つだ。また周りのサポーターに共感するのも、その1つとなる。大好きな選手に共感するのも、一例となるだろう。

ブーイングが選手に与える影響

  

Photo credit: Mila Araujo @Milaspage via Visual hunt / CC BY-ND

 
 ポジティブなフィードバックが成長を促す、というのは教育の研究では頻繁に現れる。例を出すまでもなく、子どもは褒められることでモチベーションを高める。教育の分野では国を問わず「良く出来ました」シールが使われ、子どもたちはそれを集めることに必死になる。

 では、スポーツ選手の場合はどうなっていくのだろう。ポジティブな言葉は、彼らのパフォーマンスを本当に向上させるのだろうか?それとも、ブーイングこそが彼らを奮起させるのだろうか?

 2002年に実施されたスポーツ心理学の研究によれば、応援されたアスリートは「より限界に近いところまで努力する」傾向があることが明らかになった。精神的な部分がパフォーマンスに与える影響は大きい、と同研究は締めくくっている。この研究において1つのポイントとなったのは、「継続的な応援がパフォーマンスを向上する」という点であった。


Photo credit: Jerk Alert Productions via Visualhunt.com / CC BY-SA 

 2011年に行われたKimberlyらの研究は、スポーツによって応援とブーイングが与える効果が異なる可能性を示唆した。この研究によれば、バスケットボールのフリースローは応援やブーイングの影響を受けづらく、野球の場合は「ブーイングによってパフォーマンスが低下する」というものだ。

 2010年に実施されたスポーツ心理学系の研究によれば、拍手や応援などが多い「優しい環境」と、ブーイングや罵倒が多い「厳しい環境」では、スポーツのパフォーマンスが異なってくることが明らかになった。筋力系、バランス系の種目、バスケットのフリースローにおいて、「優しい環境」でプレーした場合の記録が伸びたのである。また、ドリブルの記録はどちらの環境でも変化がなかった。同じバスケットボールを題材にしても、落ちるパフォーマンスと変化のないパフォーマンスが存在した。

 このように、ブーイングがパフォーマンスに与えるネガティブな影響は、様々な文献で議論されている。しかし、ファンと選手のパフォーマンスが関連し合うシステムは非常に複雑なものであることは間違いない。当然チームが首位なら、サポーターもブーイングをすることは少なくなるだろう。そういった面で、サポーターの反応はチームのパフォーマンスと相互に関連し合っている。

 
ブーイングとパフォーマンスの向上

 
 必ずしも、ブーイングが悪であると結論付けることは簡単ではない。ブーイングを観客の失望として受け取り、選手が奮起する場合もある。
Hope大学で行われた研究では、「ネガティブな観客の反応が、バスケットボール選手のシュート成功率を高める」という結果が出ている。しかし、ブーイングのポジティブな効果を証明する研究の数は多くはないのが現実だ。

 また、興味深いことにWallaceの共同研究はブーイングがポジティブな影響を与える可能性により仮説的に言及している。彼は、常にサポートされることに慣れているチームは「ブーイングを奮起する目的」で活用出来るのではないかと主張している。また、プロよりもアマチュアのプレイヤーの方が応援やブーイングの影響を受けやすいということも証明されている。プロの選手はプレッシャー下でパフォーマンスを披露するのに慣れており、その結果強い影響を受けることを避けることが出来る。

 ブーイングの影響を完全に悪と決めつけることは難しいが、それが「反社会的な行動」となるとある程度信頼性のあるデータを集めることが出来る。Thirer Rampeyによる研究によれば、ホームでファンが反社会的な行動を行った場合、ホームチームのパフォーマンスは低下するという。特に、ファールや警告が増える傾向があるとのことだ。

 

 
 様々な研究を見てきたが、激しいブーイングなどが選手のパフォーマンスを向上させる可能性は高くない。一方で、「応援が彼らのパフォーマンスを向上させる可能性」はある程度立証出来る。必ずしも献身的で支援的なサポートが選手達に届くとは限らないが、それを無意味なものと言い切ることは「科学的には難しい」のだ。
Wallaceの仮説を考慮すれば、「日常的にチームを支える空気があるからこそ、ブーイングが選手を奮起させる」のではないだろうか。

 Koenigstorfer Uhrichによれば、スタジアムの空気を良いものに保つことによってサポーターは試合の結果に関わらず、スタジアムに再び足を運ぶようになる傾向があるという。また、スタジアムの雰囲気を良いと感じることは「サポーターがグッズ購入に使う額」と相関している。言い換えればスタジアムの雰囲気が好きになれば、クラブのグッズを買う可能性が高まるということだ。特に試合に初めて来たサポーターがリピーターになる上で、「スタジアムの雰囲気」は重要な役割を果たすということだ。

 11人のサポーターが変わることは、スタジアムを大きく変えていく。選手にとって最高のパフォーマンスを引き出し、初めて来た初心者が感動して再び来たいと思える空気を作ることは、小さな努力の積み重ねによってのみ成し遂げられる。そして、「自分たちもあんな風に選手を支えたい」と訪れた人々全てが思えるようなスタジアムこそ、クラブ、選手、サポーターの全てにとって理想的なものなのではないだろうか。勝利を強く目指しているからこそ、選手に対して厳しい態度になってしまう気持ちも理解出来る。しかし、チームのパフォーマンスに悪影響を与えるリスクは把握しておいても良いのかもしれない。

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About yuukikouhei

yuukikouhei
結城康平: DEAR Magazine 編集部で「KNOW」カテゴリ中心に編集、企画担当。やりたい事だけは沢山あるので、Dear Magazineと共に色々なことに挑戦していきたい。ジャンル問わずなんでも書く系。サッカー批評、Qolyなどに寄稿経験有り。今一番欲しいものは、新しいノートパソコンと可愛い小動物を飼える環境。好きなアーティストはエジンバラ出身のBlue Rose Code。

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