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ハリルの完成形、「コレクティブ・カウンター」と原口元気の「予測能力」

 アルジェリアと共にドイツを追い詰めたヴァヒド・ハリルホジッチの本性が、垣間見えるような試合だった。選手の「飢え」を最大限に引き出すモチベーターとしての能力だけでなく、戦術的にも柔軟性を持つ彼は、「東欧のブラジル」と呼ばれたユーゴスラビアが生んだ多くの名指導者のうちの1人だ。

アフガニスタン、シリアと続いた連戦を問題なく乗り切り、2つの異なったチームをそれぞれ機能させる。特に攻撃において、彼のフットボール観を色濃く反映したゲームになったといえる。

今回は、いくつかの攻撃パターンを例として取り上げつつ、ハリルホジッチが構築する「理想形」について考察していきたい。その理想形に「原口元気」の存在が重なっていく。

 
左サイドの密集、右サイドの孤立

 
 アフガニスタン戦で顕著に見られたのが、左サイドでの密集だ。左サイドハーフ的な位置に置かれた柏木を攻撃の中心としつつ、彼が中央に近い位置でボールを受ける。左サイドバックがオーバーラップし、
OMFの清武とCFの金崎も右サイドに積極的に絡んでいく。4枚や5枚を左サイドに密集させることによってボールを繋ぎ、狭い距離感でのパスで崩しを狙っていた。

そして、柏木が中心となって作り出された左サイドの密集が手詰まりになったときのために、逆サイドには右サイドバックの酒井がオーバーラップ。左サイドから一気にサイドチェンジを使っていく流れも、多く見られた。

この試合で右サイドに起用された原口は、基本的にバランスを取るように長谷部の横をサポート。攻撃の形式は、こういった形で固定されていた。原口を意識する相手のSBは、オーバーラップしてくる酒井をどうしても捉えづらい。

 
JPN vs AFG①

 外に振られ続けたアフガニスタンの守備陣は崩壊し、簡単に中央にフリーで受ける選手が生まれ始める。1点目や2点目のように、相手のDFラインの前で余裕をもってボールを持つことが出来れば、ゴールは生み出される。

前線で常にボールを欲しがろうとする金崎が何度となく相手DFを振り回し、岡崎も徹底して相手の嫌なスペースへと侵入する。ボールも非常にリズム良く回っており、ハリルホジッチのチームであることを強く感じさせた。それぞれがボールを受けてから考えるのではなく、チームとして決まった判断を実行している。

「創造的なフットボール」は今まで日本代表の強みでもあり、弱みでもあった。相手が引いて守りを固めている状態でも、そこを抉じ開けようと無理に入っていってしまう。そうなると、どうしてもカウンターを受けるリスクも高まっていく。

しかし、アフガニスタン戦の日本代表は「相手が手薄になるスペース」を共有し、常に相手を振り回し続けた。ユベントスの指揮官アッレグリは日常的に「閉まったドアに、無意味に突っ込むな。ドアを開けろ」と選手たちに言い聞かせるという。アフガニスタン戦で日本が見せたものこそ、まさにこれだった。

 
シリア戦。見えた光明。

 
 宇佐美、本田、香川。豪華なテクニシャンを揃えた日本代表の攻撃は、アフガニスタン戦と比べても圧倒的に派手なものとなった。中盤に山口と長谷部を並べることによってリスクを軽減し、前線のアタッカーを躍動させる。

しかし、実際に狙った形に持ち込める場面は多くなかった。何故なら、彼らはどうしてもボールを持つ時間が長いからだ。それぞれの意図が交錯し、相手守備陣を強引にでも突破する。それが可能なことによって問題点が覆い隠されてしまうのは、贅沢な悩みなのかもしれない。しかし、それでもハリルホジッチが口酸っぱく言い聞かせ続けたであろう攻撃での形は何度か見られた。 

 

JPNvsAFG②

 例えば、この場面だ。酒井が香川に当て、ダイレクトで落とす。絶妙なタイミングで、香川が空けたスペースに長谷部が侵入する。タッチ数を極限まで減らした状態で、人が動きながらチャンスを生み出した。低い位置でプレーすることが多いボランチの侵入は、相手守備陣にとっても意表を突かれやすい。

 
JPN vs AFG③

 この場面も素晴らしい。岡崎がワイドに出て、本田とワンツー。そこから本田が受けたところで、空いたスペースに酒井高が飛び出す。岡崎に2人が引き付けられていることから、酒井高はフリー。本田がボールを持ったことで相手はシュートや逆サイドへのボールを警戒しており、右への警戒は甘くなっている。

こういった崩しに共通しているのは、「タッチ数の少なさ」と「後ろからの走り込み」だ。サイドバックやボランチが、迷いなくエリアの中に侵入する。ハリルホジッチは「密集を作って相手を引き付け、一気に逆へ。そこから長い距離を走り込んだ選手が仕留める」という攻撃を意識しているのだ。

 
ハリルホジッチが目指す
1つの完成形、「コレクティブ・カウンター」

 
 こういった
「ボール保持時間の少なさ」「多くの人間が走り込む速攻」は、オランダ人指揮官フース・ヒディンクがロシア代表で実現させた「コレクティブ・カウンター」に近い。前線にアルシャビンとパブリュチェンコを擁したロシア代表は、ユーロ2008において無敗記録を継続していたオランダ代表を打ち破る。

 ロングボールを蹴って強靭なフィジカルを持った選手に当てる従来の速攻ではなく、細かくボールを繋ぎながら人数をかけてカウンターを狙う。「現代フットボールにおいて、ボールを扱える時間は限りなく少ない。だからこそ、鍵になるのは効率性だ」と語るヒディンクの思想は、ハリルホジッチのスタイルに近い。

 
原口元気のボランチ起用、の意味。

  
 山口の負傷退場というアクシデントに伴い、指揮官は中盤の低い位置に原口元気を投入。本来はウイングとしてプレーする彼を、あえて中盤の中央に置いた。彼が置かれた理由は、「ボールを運ぶ推進力」だけではない。ここまで説明してきた「ハリルホジッチの理想とする攻撃において必要となる能力」を彼が持っていることがポイントなのだ。

その能力こそ、Anticipation-予測能力」だ。原口はボランチに入って、何度となくDFに手でパスを出す方向を指示し続けた。試合の全体を意識することが出来ているからこそ、出すべき場所を理解することが出来る。

浦和ユースの黄金世代で山田直輝を筆頭とした選手たちとプレーしながら育成年代を過ごした彼は、非常に次のプレーを予測するのが速い。だからこそ、「パスを出して、簡単に落としてもらったボールを自ら受けて展開し、そのままエリア内に侵入する」プレーもこなせる。スピードを生かしてボールを持ち出し、カウンターの起点となったようなプレーもあったが、それ以上に重要なのは「起点となるパスを出し、そのまま受け手としてエリア内に走り込める」力だと言えるだろう。

ハリルホジッチの攻撃は、後ろから走り込める選手を必要とする上に、スペースを生み出すシンプルなコンビネーションプレーに絡める選手を求めている。原口は、その両方に合致する選手なのだ。

ハリルホジッチは試合後、「原口が中盤で使われた理由をみなさんご理解いただけるでしょうか。彼のプレーが役割に適応しているということ。原口が入ってから、チームにかなりのことをもたらしてくれました。とくにオフェンス面ですね」と述べた。何度となく守備でのポジショニングミスやボールを貰いに行くべき場面で止まってしまう場面なども見られたものの、彼のボランチ起用は効果的な決断だった。

単純なパス能力では、原口以上のボランチは多くいるだろう。しかし、コンビネーションプレーを予測しながら一歩先に動き出し、味方からのパスを近い位置で受け取れる選手は多くない。香川や本田が低い位置で受けたところへサポートで飛び出し、一気にサイドへ展開することも出来る。パスを受けるフリーランと裏に飛び出すフリーランで、手数をかけずに攻撃に繋げていく。

 自らの走り込みと、予測能力によって一瞬で攻撃を加速させることが出来る選手。原口元気は、日本代表にはいなかった特異なボランチとして存在感を放ち始めた。勿論、課題も山積みだ。クラブでは前線としてプレーすることもあって、ボランチとしての経験を積むことも簡単ではない。しかし、彼がハリルホジッチの「懐刀」となれたとき。そのときは、面白いフットボールが見られるような気もしている。

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About yuukikouhei

yuukikouhei
結城康平: DEAR Magazine 編集部で「KNOW」カテゴリ中心に編集、企画担当。やりたい事だけは沢山あるので、Dear Magazineと共に色々なことに挑戦していきたい。ジャンル問わずなんでも書く系。サッカー批評、Qolyなどに寄稿経験有り。今一番欲しいものは、新しいノートパソコンと可愛い小動物を飼える環境。好きなアーティストはエジンバラ出身のBlue Rose Code。

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