J1・1st第5節、ガンバ大阪vs横浜F.マリノス。前半11分、喜田拓也がファウルを受け、マリノスにフリーキックが与えられた。
右足「ねーねー、左足お兄ちゃん」
左足「どうしたの、右足。今すっごく大事な場面だよ?調子悪いの?」
右足「僕ね、前から気になってることがあるんだ」
左足「なになに?言ってみてよ」
右足「俊輔さんってさ、サッカーのとき左足ばっかり使ってない?」
ボールをセットしたのはフリーキックの名手・中村俊輔。ゴールまでの距離は25mといったところか。
左足「うん、そうだね。なんてったって俊輔さんは左利きだからね」
右足「やっぱり?やっぱそうなんだ…」
左足「俊輔さんの左足は世界でも高く評価されているんだ。この前もフリーキック決めたでしょ?」
右足「うえぇぇぇぇぇぇぇん」
左足「ど、どうしたんだよ右足」
俊輔はキックモーションに入った。しかしインパクトの瞬間に軸足を滑らしてしまい、シュートはゴールの遥か左に逸れた。
右足「だってさ!それってさ!左足お兄ちゃんは凄くて、僕は全然ダメってことでしょ!だから使われないんでしょ!僕、悲しいよ…。うえぇぇぇぇぇぇぇん」
左足「い、いや、そういうわけではないと思うよ?ほら、右足がそんなこと言ってるから俊輔さんが滑ったじゃないか!」
ミスを悔やむ俊輔に、中澤佑二が声をかけに行く。
中澤の髪「よ!兄弟!」
左足「中澤さんの髪さん!」
右足「僕よりもほんの一瞬先に生まれただけなのに、どうして兄ちゃんはすごくて、僕はダメなんだろう」
中澤の髪「どうしたんだ右足」
左足「俊輔さんが俺ばっかり使うからって、自分はダメなやつだとか言って泣いてるんだよ。慰めてやってくれない?」
中澤の髪「なるほど。そういう年頃だからな。まあ気持ちはわからないでもない。俺も小さい頃はおでこに嫉妬してたよ。ボールに触れるのはあいつばかりで、俺はいつも汗や砂や芝にまみれているからな」
左足「髪さんも大変だなぁ」
中澤の髪「まあな。それよりも右足、ちょっと考えてみるんだ」
右足「なにを?」
中澤の髪「俊輔さんが左足でボールを蹴るとき、お前は何をしている?」
右足「…。なにもしてない…」
中澤の髪「いや、違うぞ。思い出すんだ。俊輔さんが蹴るとき、お前はいつもボールの横にいるじゃないか」
右足「…。そうだったね…。僕はただの軸足さ…」
中澤の髪「お前は軸足の重要性をわかっていないようだな。いいか?軸足がちゃんと働かなければ、ボールを正確に蹴ることはできないんだ。蹴る足ばかりに目がいくが、本当に大事なのは反対の足なんだよ」
右足「えっ」
中澤が俊輔の元を離れる。もちろん髪も中澤についていく。
右足「中澤さんの髪さん行っちゃったね」
左足「髪さんの言った通りだよ。さっき俊輔さんが滑ったのは、右足がしっかりしてなかったからでしょ?ということはさ、右足が頑張ればさ、俊輔さんもいいキックが蹴れるんだよ」
右足「そ、そうかな…」
左足「絶対そうだって!俊輔さんがいままでフリーキックを決められたのは、右足が頑張ってたからだよ!すごいじゃん!」
右足「お兄ちゃんありがとう。少し自信になったよ」
左足「よし、次のフリーキックは二人で全力で俊輔さんをサポートしよう!」
右足「うん!」
前半40分、マルティノスが倒され、またもマリノスにフリーキックが与えられた。角度は違うものの、距離は先ほどと同じようなものだ。
左足「ほら、チャンスきたよ」
右足「よし!」
左足「集中だよ、集中!」
中村俊輔がボールをセットし、助走をとる。
右足「僕、俊輔さんのために踏ん張るよ!」
左足「任せたよ!こっちも準備万端!」
俊輔が軸足を踏み込む。
右足「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ」
左足がボールを捉える。
左足「やぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
中村俊輔の左足から放たれたボールは、東口順昭の左手をかすめ、ゴールネットに突き刺さった。
東口の左手「痛っ」
おしまい