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©iStockphoto.com/ Sylverarts
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レスター・シティを支えた岡崎慎司の「進化」を解析する

今季、世界中に驚きを提供したレスター・シティのエースであるジェイミー・ヴァーディーは、チームの攻撃を牽引したアルジェリア人MFリヤド・マフレズに「狐のように、賢くプレーしろ」と言ったことがあるという。戦術分析において欧州でも高く評価される記者であるマイケル・コックスが、「岡崎慎司は、戦術的な判断に優れた賢い選手だ」と表現したように、日本のエースが持つ最大の武器は「頭脳」だ。試合を経るごとに成長したレスター・シティの若武者達と共に、岡崎慎司も急速な成長曲線を描いた。本稿では、プロ入りから毎年急速な成長で僕らを驚かせてくれる「成長する点取り屋」の進化を今季のリバプール戦から分析してみたい。

 
屈辱に沈んだ、
1度目のリバプール戦。岡崎に足りなかったもの。

 
 今季レスター・シティが、最初の敗戦を味わったリバプール戦。ユルゲン・クロップが発見したのは「レスター・シティの勢いを削ぐ特効薬」の様に見えた。攻撃の起点となるリヤド・マフレズが主戦場とする右サイドでは激しいプレッシングをかけ、レスター・シティの攻撃手段を容赦なく摘みとっていく。左サイドに逃げるヴァーディーも封じてしまえば、レスターに選択肢はない。岡崎慎司とジェイミー・ヴァーディーの
2人は、空中戦に強いタイプではない。裏に抜け出されることさえ防ぐことさえ出来れば、ロングボールを弾き返すことが可能だ。強靭な肉体を誇るリバプールのCBコンビは、岡崎とヴァーディーへのロングボールを何度となく弾き返した。

 岡崎のところでボールが収まらない展開になれば、レスターの得意とするカウンターは機能しづらくなる。ヴァーディーのスピードだけでは、どうしても対応されてしまう。低い守備ラインで守る以上、DFラインが苦しい時にボールを蹴り出すパターンことも少なくない。守備が苦しい時にボールを1秒収めてくれるだけでも、チームに与える影響は大きい。間髪入れずにカウンターを受けることを避ければ、守備陣が正しいポジションを取り直すことも出来る。岡崎が起点としてボールを守れないと、攻撃を牽引するマフレズとヴァーディーが得られる自由も減ってしまう。だからこそ筆者は、完全にゲームを支配されたリバプール戦の後、レスターは失速すると考えていた。プレミアリーグのチームがリバプール戦からヒントを得た場合、レスターの攻撃陣は抑え込めるだろうと。

 智将ユルゲン・クロップが緻密に組み上げた守備戦術によって、岡崎慎司は抑え込まれた。欧州サッカーのデータを扱うWhoscoredによれば、岡崎のパフォーマンスはチームでも下位の6.13。空中戦勝利もたったの1回で、ファールされたのも1回。FWとしては、ストレスを感じる試合になったはずだ。

https://www.whoscored.com/Matches/959645/LiveStatistics/England-Premier-League-2015-2016-Liverpool-Leicester

 1度目のリバプール戦、岡崎は対面したDFママドゥ・サコーの力強いプレーに手を焼いた。下がってもエムレ・カンに封殺され、起点になることが出来ない。

 多く見られたのが、このように前線でサコーとシンプルな空中戦をする場面だ。単純なロングボールへの競り合いでは、当然プレミアの強靭な守備陣には敵わない。岡崎はこの試合、ボールを待つときに足を止めて待つことが少なくなかった。また、動きにメリハリがなかったのも事実だ。

 この場面も、ボールを失う場面だ。サコーの前に入ろうとして一瞬足を止めたせいで、中央から出てくるロブレンにボールを触られてしまう。しっかりと踏ん張り、止まった状態でボールを収めようという意識が強すぎて、なかなかボールを守ることが出来なかった。相手の位置を把握しきれていなかったのも、問題だった。

 
幅を広げ、進化を見せた
2度目のリバプール戦。

 
 しかし、たった
3か月で彼のプレーは大きく変わる。当然レスターというチーム全体の成長にも密接に関わっていることだが、岡崎慎司は完全に封じられた借りを返すようにリバプールの守備陣を苦しめた。Whoscoredを見ても、その差は歴然だ。

https://www.whoscored.com/Matches/959607/LiveStatistics/England-Premier-League-2015-2016-Leicester-Liverpool

岡崎 表

Liverpool③

Liverpool④

 まずは、ロブレンと競り合うこの場面。今までと同様に競り負けてしまうのだが、後ろに飛ぶことによってマークについているロブレンが良い体勢でクリアしづらい状況を作っている。実際、ロブレンが触ったボールは、この後山なりに飛んでいった。サコーと競り合い、鋭いヘディングから攻撃の起点を作らせた前回とは大きな差がある。

 密集地で受けながらも、ボールを失うことなく味方へと繋ぐ。隠れた好プレーには、相手との正面衝突を避ける技術が詰まっていた。身体能力に優れるエムレ・チャンの守るべきゾーンから、サイドに流れながらボールを受けることで相手との競り合いを避けているのだ。中央に入り込むことで、チャンを引き付けるマフレズのサポートも理想形だ。

 苦しめられたサコーとの11でも、岡崎の頭脳的なプレーが随所に見られる。例えばこの場面、サイドライン際でボールに先に触った岡崎。サコーは、狭い位置に追い込んでボールを奪おうと狙う。

 縦パス、縦への突破を意識したサコーの体重移動を誘発する、絶妙なタイミングで繰り出されるまたぎフェイント。ボールを跨ぐことを、縦へのベクトルを意識させることに使うというプレーだ。サコーは完全に身体が流れ、アウトサイドでタッチした岡崎を逃がしてしまっている。

 この場面でも、スピードの変化で一気にサコーを振り切り、斜めに走って外に釣り出すようなプレーを見せる。

 そのまま外に流れつつ、ヒールでポストプレー。曲線的なプレーで、チャンスを作り出した。複数人が連動し、的を絞りにくい攻撃をこなすようになったレスターの中で、岡崎も常に様々な位置に動きながらボールを受けるようになっていった。

 周りのサポートの中で、岡崎も躍動する。追い越してくる周りの選手を意識して、それに合わせて少し下がることにより競り合うことなくフリーに。密集地で相手のプレスを誘発し、次のプレーに繋げる。

 多くの人間が攻撃に絡むようなプレーが増えたレスター・シティは、攻撃の幅を広げることで躍進を続けた。先日のプレミアリーグ優勝は、伝説的なものと言っていいだろう。指揮官ラニエリと共に日々大きく成長していった選手達に影響されながら、「賢さを武器とする」岡崎慎司のプレーも「相手との正面衝突を避けるように工夫を凝らす」英国基準へと変わっていった。頭脳的で献身的、という自らの武器で、フィジカルの差を見事に埋めたのだ。岡崎はマフレズのような柔らかいタッチはなく、ヴァーディーのように速くもない。カンテのように強靭なフィジカルがある訳でもない。それでも、チームにとって岡崎は絶対に欠かせない最後のピースだった。

 30歳というFWとしては高めの年齢にも関わらず、未だにスポンジのような吸収力を誇る岡崎慎司。日本最高のストライカーの進化から、これからも目が離せない。

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About yuukikouhei

yuukikouhei
結城康平: DEAR Magazine 編集部で「KNOW」カテゴリ中心に編集、企画担当。やりたい事だけは沢山あるので、Dear Magazineと共に色々なことに挑戦していきたい。ジャンル問わずなんでも書く系。サッカー批評、Qolyなどに寄稿経験有り。今一番欲しいものは、新しいノートパソコンと可愛い小動物を飼える環境。好きなアーティストはエジンバラ出身のBlue Rose Code。

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