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Photo credit: E. Krall via VisualHunt / CC BY-ND
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アメリカと日本は、リオネル・メッシを生み出すことが出来るか?

 
「アメリカはいつ、リオネル・メッシを生み出せるのか

 
そう題した、アメリカのサッカーリーグであるメジャーリーグサッカー公式によって作られた動画がある。

その対する返答として書かれたJon Townsend(ジョン・タウンゼント)記者の「アメリカがメッシを生み出せない理由」という記事は、アメリカ合衆国の育成環境に鋭く切り込んだ。スポーツ大国と言われ、多くの才能を眠らせていると思われていたアメリカ代表の直面する問題は、日本の育成とも強く関連していくものだった。今回は、アメリカサッカーが直面する問題と関連付けつつ「日本がメッシを生み出せない理由」を考えていくことにしよう。

via THESE FOOTBALL TIMES

 

順風満帆に見えるアメリカサッカーだが… 

 
「サッカー不毛の地」。大国アメリカは、歴史的にサッカーにおいて結果を出すことが出来なかった。しかし、総合的なスポーツ育成組織として知られるIMGアカデミーが「プロジェクト2010」を立案し、2010年W杯で優勝するチームを作るためを育成に力を入れ始めたことで、風向きが変わり始める。スポーツ科学を活用した育成によって、多くのアスリートを生み出したアメリカは、2002年W杯でベスト8にまで進出。2010年、2014年大会には連続でベスト16まで進出した。

Photo credit: E. Krall via VisualHunt / CC BY-ND
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 見事に「中堅国」の仲間入りを果たしたアメリカだが、ここ数年は順風満帆という訳ではない。ランドン・ドノバンやクリント・デンプシーといった黄金世代が抜けた後、若い世代がなかなか育っていないことだ。現状の代表メンバーでは、最も期待されている若手の1人のがトッテナム・ホットスパーズに所属し、サンダーランドにローン中のDFデアンドレ・イェドリンというところ。バイエルンが保有権を持つジュリアン・グリーンは、2歳からドイツに移住しているのでアメリカの育成によって磨かれた選手ではない。今最も熱いタレントとしては、ドルトムントの新星クリスティアン・プリシッチ。しかし彼も、15歳の時にはバルセロナ、チェルシー、ビジャレアル、PSVといった欧州のクラブで練習参加。ヨーロッパの育成によって、若き日から磨かれた選手だ。

 前線で期待されていたジョジー・アルティドールも欧州の舞台では活躍出来ず、未だにチームを支えているのが元ローマのマイケル・ブラッドリー。素晴らしい能力を持ったMFだが、彼の後釜になれる選手が出てこないことは寂しい限りだ。アメリカでは国内でのサッカー人気が高まっており、メジャーリーグサッカーにはアンドレア・ピルロ、スティーブン・ジェラードなどの大物が集まってきている。

 それでも、彼らは見えない壁に阻まれている。欧州で出番を得る若手も現れてはいるものの、代表の主軸を背負うには時間がかかる。本来選手としては働き盛りとなる中堅選手達は、ヨーロッパで成功出来ずに苦しむ。現在26歳のブレック・シェイもストーク・シティに移籍したが、活躍しきれずにアメリカに戻ることになった。

 
「才能の発見」における日米共通の問題点

  
 2014年のWall Street Journalのレポートによれば、アメリカ合衆国で6歳から18歳までのサッカー人口は、600万人を超えるという。この状況では、人材の不足という言い訳は通用しない。 

Photo credit: Frederic Mancosu via VisualHunt / CC BY-ND
Photo credit: Frederic Mancosu via VisualHunt / CC BY-ND

  
 タウンゼント記者が指摘する育成における問題の1つは、パワーやスピードといった身体能力で相手を圧倒出来る「強靭なアスリート」を求める土壌がアメリカに存在していることだ。野球やバスケットボール、アメリカンフットボールといったスポーツからの影響もあるのかもしれないが、アメリカでは小柄なテクニシャンはスカウトの評価を得られづらい。また、将来のポテンシャルではなく「現状の能力」で評価してしまう傾向があるようだ。

 これは、日本においても存在する問題だ。中村俊輔は、身長が足りないという理由でユースに入ることが出来なかった。京都の久御山高校で活躍し、筑波大学に進んだMFの二上浩一は、筆者が即座にプロに入っても良いのではと思っていた選手だった。彼のボールを扱うことに対する気遣いは、日本の育成年代で今まで見た中では別格のものだった。高校サッカーからプロへと引き抜かれるのは解りやすく目立つ選手ばかりで、チームのバランスを保っている縁の下の力持ちが着目されることは少ない。

 トッテナムのアカデミー責任者は、現在プレミアで大活躍を続けるFWハリー・ケインについて「データだけで見ていれば、とっくに放出していたよ。13歳の時、彼のジャンプ力は平均より30%下で、敏捷性は10%下だった。彼の武器は、圧倒的な成長への意欲だ。常に全力で練習し、技術を向上させることを目指し続ける」とコメントしている。現状の能力だけを見ることは、怪物になり得る少年を手放すことに繋がりかねない。

 こういった才能認識の問題には、スカウトの少なさも関わっている。アメリカ代表候補者のスカウトを担当している人間は、全土でもたったの80人。しかも、多くは大学の指導者を兼ねている。隠れた才能を抜擢することなど、実質不可能に近い。ドイツ代表では、指導者兼任のスカウトが500人を超える。ドイツの育成面でのトップ、Robin Duttは「2000年以前、我々はドイツには才能ある選手がいないと思い込んでいました。今や、我々はドイツでプレーする全ての選手を知っているのです」と語る。

 
求められる「土台」

 
 アメリカで育成年代を指導している
Terry Michlerはアメリカのサッカーが抱える問題をこのように表現した。「家を建てるときに、まずは土台を作らなければならない。そして壁などを加えていき、最後に屋根を乗せる。アメリカのサッカーは、屋根からスタートしてしまっている。土台なしで、屋根の部分を作ろうとしているということだ。普段は良いかもしれないが、雨風に晒されれば屋根は吹き飛んでしまう」

Photo credit: eflon via Visualhunt / CC BY
Photo credit: eflon via Visualhunt / CC BY

 
 アメリカでは日本と同じく、「両親がユースチームにとっての顧客」となる。子どもにとっての習い事は溢れており、両親がそれを選択していく。子どもにとってサッカーが「お金のかからない遊び」であることの多い国々とは、根本的に異なっているのだ。マンチェスター・ユナイテッドに移籍し、今はポルトガルリーグに戻った「ポルトガルの原石」ティアゴ・マヌエル・
. ディアス・コレイアはホームレスの少年だった。ストリートサッカーしか知らない少年が、ポルトガルでプロへの階段を駆け上がる。近代的なシステムが育成を支配する現代でも、ヨーロッパではこうした「イレギュラー」が起こり得る。「ベベ」という名で知られた青年は、夢物語を体現した。

 日本やアメリカではある程度のレベルを超えれば、両親が経済的に安定していることが成功の鍵になってしまう。トップレベルの育成を受け続けるためには2000万円程度が必要だと言われている日本では、経済的な負担を原因に消えていく才能も少なくないはずだ。タウンゼント記者は、「奨学金などの制度を整えること」の重要性を指摘している。才能がある選手が経済的な面でチャンスを失ってしまうような状況は、出来る限り避けるべきだろう。

 
致命的な指導者の不足

 

Photo credit: woodleywonderworks via VisualHunt.com / CC BY
Photo credit: woodleywonderworks via VisualHunt.com / CC BY

 
 ボランティアでやっているアマチュアの指導者と共に、最も重要となる時期を過ごすことは、才能を磨いていく上で障害となり得る。アメリカ的な「スポーツ」の概念が持ち込まれた日本でも、それは同じだろう。スポーツは基本的に余暇の時間に楽しむものであって、高校や大学でのスポーツへと繋がっていく。甲子園や箱根駅伝のような学生スポーツがプロの大会並みに注目を集めるのも、アメリカ的と言っていい。

 アメリカでも大きな問題になっているのは、指導者の待遇が悪いことだ。指導者全体のレベルアップに取り組んだドイツは、多くの指導者がフルタイムで給料を得ている。最低でもUEFABライセンスを取得する1000人の指導者が、ドイツ代表を目指す若者を指導している。

 トップレベルの指導者を集めるためには、当然資金が必要だ。大学や高校に依存するアメリカや日本のシステムでは、子どもの頃からプロの指導者に育てられてきた選手達と戦うのは難しい。素晴らしい才能を見つけ出せたとしても、その才能を正しく導ける環境が出来上がっていなければ、どんな環境でも力を発揮できる数人の天才を作り出して終わってしまう。ドイツやスペインのように次々と世界と戦える選手を生み出すには、トップクラスの育成が身近にある環境を作り出さなければならない。ドイツでは、アマチュアのクラブとプロチームが育成において協力しているという。アマチュアのクラブに頻繁にプロの指導者が赴き、トップレベルの指導を行う。そこで見つけ出された才能は、プロのクラブに推薦されることもある。

 
急速な発展と、その先

 
 日本もアメリカも、フットボールにおいて急速な発展を経験した。
MLSJリーグも、長い歴史を持つリーグではない。それでも2つのリーグは両国において存在感を高め、重要なものとなりつつある。しかし、この先に進んでいくのは簡単ではない。

 多くの国において、「黄金世代」が生まれる。だが、その強さを安定して保つことは簡単ではない。2002W杯で上位に進出したトルコ代表や韓国代表、2004年のユーロで結果を出したギリシャ代表、チェコ代表。2006年には、ヒディンクと共にロシア代表が躍動した。しかし、彼らは安定したチーム力を保てていない。

 かつてメキシコ代表で活躍したボルヘッティが、日本代表に送った言葉が思い出される。

「ここまでの道のりは、そう難しくないんだよ。むしろ、大変なのはここからだ。君も知っての通り、世界のトップ8、そこに食い込んでゆくために、メキシコはもう20年くらい苦しんでいる。そしてもちろん君の国も、これからその苦しさを味わうことになる」

 メキシコは、非常に緻密な育成システムを持つ国だ。彼らですら、厚い壁の存在を実感している。しかし、一歩ずつ進んでいく以外に道はない。着実に積み上げるように組織を改革し、UEFAランキングの頂点にまで辿り着いたベルギー代表のように、着実な育成によって壁を越えていくことは決して不可能ではないのだから。

 

参考リンク
CAN MLS PRODUCE ITS OWN LIONEL MESSI? (NO, IT CAN’T) / アメリカがメッシを生み出せない理由(編集部訳)」

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About yuukikouhei

yuukikouhei
結城康平: DEAR Magazine 編集部で「KNOW」カテゴリ中心に編集、企画担当。やりたい事だけは沢山あるので、Dear Magazineと共に色々なことに挑戦していきたい。ジャンル問わずなんでも書く系。サッカー批評、Qolyなどに寄稿経験有り。今一番欲しいものは、新しいノートパソコンと可愛い小動物を飼える環境。好きなアーティストはエジンバラ出身のBlue Rose Code。

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