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小さな町のクラブを女子選手が選ぶ理由。「地元」と「サッカー」の関わりかた

Photo courtesy of オルカ鴨川
Photo courtesy of オルカ鴨川

 
人口わずか3万4千人の町にあるクラブが、開幕戦で1200人の観客を集めた。これは3部リーグに所属する、あるサッカークラブの話。J3?いや違う。女子の3部リーグに相当するチャレンジリーグだ。
創設から僅か2シーズンでここまで駆け上がり、現在開幕8連勝で首位を快走。徐々に頭角を現している女子サッカークラブだ。

北海道のアウェーゲームには地元から多くのひとが応援に駆けつけ、所属する選手は「ある理由」からこのクラブを選ぶ。この小さな町がつくり出す「スポンサー」「行政」「地元」、そして「サッカークラブ」の関わり合いには、「サッカーという文化」のヒントが隠されている。

 
関東の片隅、南房総から全国へ

 
「オルカ鴨川」は、千葉県鴨川市、房総半島南部にある女子サッカークラブだ。関東地方にお住まいの方なら「鴨川シーワールド」というテーマパークの名前で馴染みがあるはず。

 2014年1月、南房総から女子のトップリーグであるなでしこリーグを目指そうと、鴨川市に拠点を置く医療法人「鉄蕉会 亀田メディカルセンター」を母体にオルカ鴨川FCが創設された。元日本代表FWで浦和レッズレディースで活躍した北本綾子氏を選手兼監督として招聘。初年度は最下層の千葉県2部リーグからスタートし、翌年には千葉県1部に昇格し優勝。飛び級制度でチャレンジリーグ参入戦への参加が認められ、参入戦にも勝利し、僅か2年で全国リーグへの切符を勝ち取った。

 今季、全国リーグ初参戦ながらここまで開幕8連勝。北本監督は「どの選手もコンディションが良く、メンバー選びが難しい」と嬉しい悲鳴を上げているほどチーム状態は良い。ホームゲームの観客も4試合で平均970人を超えている。創設間もないチームのこの勢いはどこからきているのだろう。

日本代表歴もある北本監督。昨季で選手キャリアを終え、今季から監督業に専念している

 
「女子選手はセカンドキャリアも考えてチームを選ぶ」

 
 今季、なでしこリーグのINAC神戸から加入したFW平野里菜選手は、鴨川のことを「サッカーに打ち込みやすい環境」と話していた。恐らく日本の女子サッカー界で一番環境が整っていると世間では思われているINACから移籍してきた彼女からの言葉だけに、非常に考えさせられる言葉だ。

今季新加入のMF西尾麻奈美選手(左)とFW平野里菜選手(右)。2人とも新天地で充実したサッカーライフを送っている

 

 今回、クラブ運営に携わる岡野氏に話を伺うことができた。彼は運営にあたり大切な3つのポイントを挙げた。大口のスポンサー行政のサポート、そして地元の力。まだまだ改善点はあるとしながらも、オルカ鴨川はこの3点が非常にバランスが取れているためチームの躍進に繋がっていると分析している。

地元の神社で神主を務めながらクラブ運営に携わる岡野大和氏
地元の神社で神主を務めながらクラブ運営に携わる岡野大和氏

 
 そのうちの1つ、大口のスポンサーは本来、多額の運営費を拠出してクラブを支える役割を担う。しかしオルカ鴨川の母体である亀田メディカルセンターは
運営費以外でも選手の雇用を確保しクラブを支えている。オルカ鴨川の選手は学生以外ほとんどが系列の亀田総合病院で働いているのだ。

 ただ、スポンサー企業等への就職斡旋は他のなでしこリーグのクラブでも行われている。オルカ鴨川の選手も朝は8時頃から出勤し、午後3時まで仕事。その後練習に向かうという、女子サッカー選手の生活サイクルとしては「一般的」な日常である。

 それでも、今季はトップリーグ経験者が多く加入した。前所属チームで主力級だった選手もいる。それでも2つもディビジョンを落として昇格間もないこのチームに活躍の機会を求めている。何がそこまで魅力なのか。

開幕からゴールを量産するFW松原佳恵選手をはじめ、多くのトップリーグ経験者がオルカ鴨川を新天地として選んでいる
開幕からゴールを量産するFW松長佳恵選手をはじめ、多くのトップリーグ経験者がオルカ鴨川を新天地として選んでいる

 
 これについて岡野氏は「男子はディビジョン・レベルでチームを選ぶ傾向があるようだが、
女子選手はとても現実を見ており、セカンドキャリアを考えてチームを選んでいる」と語る。

 病院は景気の影響を受けにくい職場であり、ここでの職歴はセカンドキャリアにも大いに役立つ。勉強して資格の取得も目指すことも可能で魅力ある職場だ。

 また亀田総合病院にはスポーツ診療部門があり、普段からの体のケアや負傷時の治療などのメリットが期待できる。経営母体が運営費・雇用の面だけでなく、選手のプレー環境をも整備している点こそが、多くの有力選手を惹きつける理由だ。

 
小さな町だからこそ、女子サッカーを盛り上げることができる

 
 サッカーに打ち込める環境を作り出しているのは経営母体だけではない。むしろ地元の力の大きさこそが選手のサッカー環境をより良くしている最大の要因である。「女子サッカーはまだまだマイナースポーツ。ただ、だからこそ鴨川のような小さな町が盛り上げていける」と岡野氏は話す。

 首都圏は娯楽で溢れかえっている。浦和レッズのようなチームが試合をしていれば皆そちらに行ってしまう。サッカーだけでなく野球もある。千葉にはロッテマリーンズがある。そのような中で新参者がやっていくのはかなりハードルが高い。

 一方で鴨川は周囲に娯楽が少ない。催し物となれば、時間さえあれば地元住民は観に来てくれる。そしてチームを家族のように大切に応援してくれるという。

1000人を超えるサポーターの声援を背に戦うオルカ鴨川の選手
1000人を超えるサポーターの声援を背に戦うオルカ鴨川の選手

 
 ホームゲームでは陸上競技場のスタンドがオルカブルーをまとった地元住民で埋まり、スタンド外では地元の大学生がボランティアとして運営にも携わる。試合中の声出し応援も男子大学生たちの勇ましい声がピッチに響き渡る。アウェイゲームでも宮城や北海道になんと約100人のサポーターが駆け付けたというから驚きだ。何度もいうが、これはJリーグクラブの話ではない。女子3部リーグのクラブの話だ。

 初年度から在籍するキャプテンでDFの柴田里美選手も「病院で働いている時、街を歩いている時に地元の方から温かい声をよくかけられるし、多くのお店で幟やポスターを飾ってもらっているので、地元に支えられている感じがする」と話している。

女子サッカーへの関心が高いドイツでのプレー経験がある柴田選手。鴨川もドイツに負けないくらい地元のサポートが心強いそうだ

 
 行政もオルカ鴨川が持つポテンシャルに大きな期待を寄せている。鴨川市はオルカの活躍に伴い、環境改善のため早急に練習場を改修し、今季開幕前にオープンさせた。チームの成長にスピーディに対応しており期待の高さが窺える。ホームのみならず
アウェイにも市職員がカメラマンとして駆けつけ、市長もホームゲームにたびたび顔を出している。市のスポーツ推進担当課とオルカ鴨川スタッフのミーティングも度々行われているそうで、日々新たな試みを模索している。

熊本地震への募金活動に参加する鴨川市長(中央)。「スポーツと観光で地域を元気に」とオルカ鴨川に期待を寄せている
熊本地震への募金活動に参加する鴨川市長(中央)。「スポーツと観光で地域を元気に」とオルカ鴨川に期待を寄せている

 
 創設3年目にして地域の期待も大きく、サポートが手厚い。選手たちも身が引き締まる想いだろう。数字として表せるものではないが、このような地域のサポートがサッカーに打ち込める環境を作り上げているに違いない。

 
じゃあ、文化ってどういう状態?

 
 オルカ鴨川の目覚しい活躍には気にかかるものがあった。

 昨年、カナダW杯決勝戦の前日に女子日本代表、宮間あや選手が発した「女子サッカーをブームではなく文化に」という言葉を覚えている人は少なくないだろう。ゼロから急成長を遂げたオルカ鴨川に、代表と同様の不安を感じていたのだ。岡野氏にその言葉を投げかけると意外な言葉が返ってきた。

 
「では文化とはどういう状態なのでしょう?」

 
「サッカーを文化に」という言葉が先を走りすぎて、文化となった状態を頭に描いている人が少ないと岡野氏は警鐘を鳴らす。

「まだその明確な答えは出せていない。ただ、大切なのはそれがどういう状態なのかを追求していくことであって、追求していく中で徐々に『文化』という状態に近づいていくのではないか」と力強く語っていた。

 文化として定着するためには時間を要する。すぐに、というわけにはいかない。そのような中でオルカ鴨川の運営スタッフは今できることを着々とやっていると感じる。

 4月24日のホーム2戦目は復興支援マッチと銘打って開催された。先日の熊本地震の震源となった益城町は奇しくも昨年のチャレンジリーグ参入戦で明暗を分けた益城・熊本ルネサンスのホームタウンであった。全国リーグ参入後ホーム2戦目、通常の試合運営だけでも精一杯のところ、最初の地震発生から約一週間で復興支援のためのグッズ販売、物資輸送などの支援イベントを対戦相手のつくばFCレディースも巻き込んで実行に漕ぎ着けた。

 これだけの迅速な対応も素晴らしいが、特筆すべきは、この呼び掛けは地元から上がってきたということ。地元がオルカ鴨川のことを鴨川の代表として捉えていることの表れである。クラブ創設3年目と考えれば十分すぎる状態だと感じる。これが50年、100年と続いていく持続可能なクラブ運営の先に「文化」となったオルカ鴨川があるはずだと信じている。

対戦相手のつくばFCレディースの選手・スタッフも協力し応援Tシャツを着用。今後もオルカ鴨川は熊本への物的・精神的支援を続けていくという

 

 チームは好スタートを切ったが、選手・運営それぞれが現状に満足することなく、向上心を持って日々取り組んでいるのが頼もしい。選手たちはチャレンジリーグ優勝と2部リーグ昇格を目指し、運営は更なる動員増を目指している。

 南房総から始まったばかりのオルカ鴨川の大航海。女子サッカークラブのスタンダードを変えるかもしれないこのクラブに今後も注目していきたい。

Photos by Footysub

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footysab: フットボールという物差しを片手に、日本のみならず世界を旅するトラベラー。プレーする人、サポートする人の数だけ、様々なフットボール観があって、それを確かめに行く旅はとても楽しいものです。貴方のフットボールライフをちょっと豊かにする気付きになってもらえたら、不器用ですがそんな想いで各地で見てきたものを書き留めていきます。

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