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Photo credit: dannymol via Visual hunt / CC BY-ND
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一般サポーターの投稿が大ブームに→選手本人が熱唱。英国のチャントという文化

EURO2016も開幕し、盛り上がりを増す欧州フットボール。そんな中、「フットボールの母国」イングランドで一大ブームを巻き起こしている曲があることを知っているだろうか? マンチェスター近郊の小さなクラブであるウィガン・アスレチックスのサポーターが作り出したチャントが、英国中に広がっている。今回は世界中を虜にする“Will Grigg’s on fire”を題材にしつつ、英国のチャント文化を覗いてみよう。

 
チャントという文化

 
 イングランドのプレミアリーグとチャントは、切り離せない関係にある。チャントとは、チームのサポーターがスタジアムやパブで声を合わせて歌う曲のことだ。それはフォークソングを元にしたものだったり、最近のヒットソングを元にしたものだったりする。

リバプールの“You’ll never walk alone”などが有名だろう。チャントは時代によって変わりゆくものである一方、伝統を残すものでもある。英国にはチャントという形でしか、残っていないほど古い曲もあるという。

 スコットランドで独立に対する機運が高まった時、代表の試合では独立に関するチャントが歌われた。彼らにとって、スタジアムというのは生活と密接に結び付いた場所なのだ。イングランドのサポーターは共に歌うことで親交を深め、選手を鼓舞する。

また、ライバルチームのサポーターを攻撃する時にもチャントは使われる。直接的な宿敵との試合ではなくても、宿敵を煽るようなチャントを歌うことも珍しくはない。点を決めて相手のサポーターが沈黙すれば「お前らは、もう歌えない!!!」と一気に活気づく。

ロンドンには、多くのフットボールクラブが点在しているが、そんな彼らがマンチェスター・ユナイテッドのホームであるオールド・トラッフォードで試合する時、ロンドンのサポーターは「お前らをロンドンに送り返してやる!!」と歌う。

マンチェスター・ユナイテッドを応援する多くのサポーターがロンドン在住、もしくはロンドンで働いている、という事実を皮肉っているのだ。彼らはロンドンに住む人々が地元のチームを応援するのではなく、マンチェスターのクラブをサポートしていることを笑うのだ。

 時に差別的な表現と結び付くことはネガティブではあるが、チャントという文化はチームを鼓舞し、時に相手を皮肉るイングランドのフットボールを象徴するものだ。パブで肩を組みながら見知らぬサポーターと共に歌えば、彼らは一瞬で「仲間」とみなしてくれる。

筆者もスコットランドのスタジアムやパブで、何度となくそれを実感した。サポーターが最も愛する歌を覚えていくことで、旅行者や留学生でも彼らの「親友」になれるのだ。

 
Will Grigg’s on fire”

 
 ウィル・グリッグ。無名に近かった北アイルランド代表のストライカーは、
3部に沈んだウィガン・アスレチックスの救世主となった。43試合で28得点を決めたエースは、チームを2部昇格へと導くことになったのだ。そこまでなら、特に珍しい話ではないのかもしれない。しかし、この物語には続きがある。

ウィガンサポーターのSean Kennedy(シーン・ケネディ)Youtubeに自作のチャントを投稿したことが、全てのきっかけだった。イタリア人アーティストによるGALA“Freed from desire”を原曲として作られた歌は、予想以上に大きなヒットを生むことになる。

「ウィル・グリッグが燃えている!!!お前らのDFは脅えている!!」というサビを繰り返す比較的シンプルなチャントは、ウィガンサポーターのお気に入りとなる。ウィガン公式も、ウィル・グリッグの動画にこの曲を使用することになったほどだ。1人のサポーターが作り出したチャントは、クラブにとって欠かせないものとなった。

曲を生み出したシーン・ケネディは、ウィガンの会長から無料でシーズンチケットをプレゼントされたという。更にプロのミュージシャンであるDJ Kennoがカバーしたことによって、この曲はiTunesのチャートで7位を記録することになった。北アイルランド代表のストライカーはこのチャントによって、「イングランドで、今季最も有名な選手」の1人となったのだ。クラブもブームに乗って、Tシャツを発売している。

 ウィガンのサポーター達は、パブやスタジアムで飽きることなくこの曲を歌い続ける。ウィル・グリッグは北アイルランド代表の選手でもあることから、北アイルランド代表のサポーターも同様にこのチャントを歌うようになった。1人のサポーターから始まったチャントが、ウィル・グリッグという選手を愛する多くのサポーターに共有されていく。 

最終的には、北アイルランド代表の選手達が共にこの歌を歌うまでになったのだ。本人も「この歌をスタジアムで聞けるのは、とても嬉しいことだ。得点を決めた時に歌ってくれる曲だし、常に僕に力をくれるものだよ」と語っている。

 北アイルランド代表は、静かに欧州の強豪が蠢くフランスに向かう。アイルランドリーグで名を挙げた指揮官マイケル・オニールに率いられる彼らは、虎視眈々と世界中を驚かせるチャンスを狙っている。

 歴史上でも初のユーロ出場を果たした指揮官は、選手達に手作りのビデオを見せることで鼓舞。代表選手というものの価値、自分たちが代表する北アイルランドという国の素晴らしさを再認識させた。精神的に弱かった選手達を、1歩ずつ導いた指揮官の仕事は称賛されるべきものだ。

 指揮官が「ラニエリが率いたレスター・シティのスタイルを手本としている」と語るソリッドなチームには、前線に燃えるストライカーがいる。ラニエリと同様にメンタル面でのアプローチを重視する指揮官に率いられ、チームは着々と力を蓄えている。今季レスターを牽引したジェイミー・ヴァーディの様に、ウィル・グリッグが“on fire”となれば、決勝トーナメント進出という奇跡も不可能ではない。そして北アイルランドのサポーターは、スタジアムで幸せそうに“Will Grigg’s on fire”を歌うだろう。

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About yuukikouhei

yuukikouhei
結城康平: DEAR Magazine 編集部で「KNOW」カテゴリ中心に編集、企画担当。やりたい事だけは沢山あるので、Dear Magazineと共に色々なことに挑戦していきたい。ジャンル問わずなんでも書く系。サッカー批評、Qolyなどに寄稿経験有り。今一番欲しいものは、新しいノートパソコンと可愛い小動物を飼える環境。好きなアーティストはエジンバラ出身のBlue Rose Code。

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