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欧州サッカー選手のタトゥー、ぶっちゃけどうなの?プロの日本人彫り師に聞いてみた

海外サッカー情報誌、footballista(フットボリスタ)2016年8月号の特集、「新世代メディアとサッカー」との連動企画。誌面に掲載された記事、「EURO2016を、DEAR Magazineならどう伝えるか」を再編集し、完全版を掲載します。

 

世界最高峰の舞台を彩った美女…ではなく、選手の体そのものを彩る「タトゥー」。EUROにかじりついたみなさんは、選手の派手なタトゥーを目にすることも多かったはず。

そこで今回はそもそもタトゥーっていったいどんなもの?そして、欧州フットボーラーのタトゥーはぶっちゃけどうなの?というようなことを、欧州でも活躍する日本人タトゥーアーティスト、「彫晴(ほりせい)」に聞き、EURO2016に出場している選手の中から、「本当にクールなタトゥー」を入れている選手をプロ目線で選んでもらった。

 

刺青文化が世界的に発展したのは、実は日本

 
 世界最古のタトゥーは、氷河で発見された5300年前のミイラに彫られていたものといわれている。そう、教科書にも載っている、あの「アイスマン」だ。刺青の歴史は実はびっくりするほど長い。

「日本も刺青の歴史も縄文時代からとかなり古く、文献も残っていないころまで遡ります。中国の歴史書『魏志倭人伝』には、倭人の男子はみな刺青を施していたという記述があり、アイヌや琉球民族も刺青を入れる伝統的な風習があったとされています」と彫晴。

そして、日本の刺青文化は江戸時代に、町人や当時の鳶や飛脚、超人気職業である火消しを中心に最盛期を迎える。

「火事が起こったとき、延焼を防ぐために燃えている家屋ごと崩すのが当時の火消しの仕事だったそうなんです。そして、家屋の屋根に乗って最前線で纏をもって合図を送るのが花形。その火消しの気合が入りすぎて火に突っ込みすぎた結果、屋根ごと落ちてしまう、ということもしばしばでした。そんなときに『何組の誰か』がすぐにわかるように個体識別の意味合いで刺青を入れていたといいます」

 一方で、もともとは犯罪抑止の意味合いもあったよう。「実際に、犯罪者への刑としての刺青(入墨刑)はあったようです。佐渡に島流しにされる罪人は『マルサ』と彫られたり、盗みなどを働くと、回数を重ねるごとに額に1本ずつ線を彫られ最終的に『犬』という字になるなど、かなり厳しいものだったみたいです」と彫晴は話す。

『通俗水滸伝豪傑百八人之壹人・浪裡白跳張順/歌川国芳』Wikimedia Commonsより
『通俗水滸伝豪傑百八人之壹人・浪裡白跳張順/歌川国芳』Wikimedia Commonsより

 
 しかし、入ったら消えない、痛みを伴う刺青は庶民の間で「気合」、「粋」を示すものになっていき、浮世絵などの日本絵画と交わったこともあり職業ごとの刺青文化が爆発的に発達していったという。

「侍と違い、一般市民は”けじめ”の取り方として切腹が許されていませんでした。なので当時のひとたちは、侍に負けないくらい気合が入っているということを示すために入れていたといいます。火消しや鳶たちのなかでは、『刺青が入っていないのは恥』とまで言われていたそうで、装飾用の刺青は刑罰としてのそれとは明確に区別され、ひとつの芸術として発展しました」と彫晴。

侍は刺青が禁止されていたことも相まり、「お上」へのカウンターカルチャーとして燃え上がった側面があるよう。

「また、火消しは『強きをくじき、弱きを助ける』というように、市民の安全や治安を守る役割も果たしていたようで、そこから『任侠』に繋がったという考えもあります。流行りすぎて最終的には、御家人などの武家の侍(つまりお上)も彫るようになったそうです」

 しかし明治時代初期、近代国家への歩みを進めたい政府は、西洋人から「野蛮」だと思われかねない刺青を禁止する。すると刺青文化は急激に廃れていき、法を無視するアウトローの間だけで好まれていくようになる。戦後のGHQ占領下時代には再び合法となるが、「刺青はアウトローがするもの」という今日のイメージは、こういった背景によるものと考えられている。 

欧州のタトゥー事情

 
意外なことに、欧州の文化としてのタトゥーは比較的新しいもので、タトゥーに対して嫌悪感を示すひとも一定数いるという。

「これは世代間で意識の違いがあるように見受けられます。やっぱり、年配のかたほどタトゥーへの忌避感は強いかもしれません」

「とはいえ、全体的には日本よりもはるかに寛容です。50、60代の普通のかたがタトゥーを入れに来ることもしょっちゅうですし、この間は10代の子が、誕生日にお母さんと一緒にスタジオへ来て入れていきました。弁護士や、銀行のトレーダーのようなひとでも入れに来ます」

Photo from ©iStockphoto.com/ Anchiy
Photo from ©iStockphoto.com/ Anchiy

 
 タトゥーが一般的なものになっている背景には、イギリスで船乗りなどを中心に労働階級層の間で流行したことがある。

18世紀ごろ、人々が世界を船で行き交うようになり、伝統的な刺青文化をもつ太平洋諸島の部族に船乗りたちが出会い、真似をしたのがはじまりだ。

「それこそ、刺青が禁止されていた明治時代初期にも、イギリスの貴族や王族など上流階級のひとも、こぞって日本の和彫りを入れに来ました。和彫りの「ぼかし」という技術はとても珍しく、刺青遊びが盛んだったので海外のひとにとっては発想が飛び抜けていたそうです」

 ただ、タトゥーを入れること自体へのハードルは低いが、何も考えていないかというとそうではないようだ。

「普通のひとが入れることが多いので、入れる際には、意味合いやどういったタトゥーなのかなど、しっかり考えるひとが多いです。酔っ払った勢いで入れるというのをよく聞きますが、実際はそんなにない。そういう話にした方がかっこいいから、ということは多いです」

「また、肌感覚にはなりますが、労働階級のひとは気軽に入れる一方で、上流階級のひとはちゃんとしたものを入れる印象です」 

 

Photo credit: David Blackwell. via VisualHunt.com / CC BY-ND

 

 欧州フットボーラーのタトゥーを(バッサバサ)斬る

 
「いま、タトゥーは過去に例がないくらい、特に若い層を中心に大流行しています。若いひとほどファッション感覚が強くなっています。やはり芸能人やサッカー選手の影響が大きいと思います」。特に日本の伝統的な「和彫り」スタイルは、ぶっちぎりで人気があるそうだ。

「ただ、正直にいうと、タトゥーアーティスト、タトゥーファンからみたサッカー選手のタトゥーは、とにかく汚い。こどもみたいでめちゃくちゃという認識です」と衝撃の発言。

「サッカー選手はオンシーズン中は彫れないので、オフ中に入れるわけなのですが、オフ中に思いついたものを急に入れたいといっても、腕のいいアーティストは予約が1年待ちということもザラです。なので、友達や経験の浅いアーティストに入れてもらうことが多い。結果、お世辞にもうまいとはいえない、かつまとまりのない無造作なものになってしまう傾向があります。

『あれもこれも、すぐに入れたい。金はいくらでも出すから俺のために時間を作ってくれ』というひとが割と多いので、上手なアーティストはサッカー選手の依頼は敬遠して断ることが多いのも事実です。

ただ一方で、有名サッカー選手を彫ることによって若手アーティストの顧客が増え、経験を積んでうまくなるという相乗効果も生み出しているので、一概に悪いとはいえません」 

刺青にはどんな種類があるの?

Image from ©iStockphoto.com/reinekke
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タトゥーには大きく分けて以下の種類がある。

  • 色もの
  • 黒のぼかし
  • ブラック&ホワイト
  • トライバル

色ものは文字通りカラーのものです。ぼかしは色の濃淡、グラデーションをつけたもので、この技術が和彫りの真骨頂といっていいです。ブラック&ホワイトも文字通り白黒のもの。トライバルは直訳すると「種族」という意味で、世界各地の部族が伝統的に彫っているタトゥーのスタイルです。「Tattoo」ということばも、もともとはタヒチ語の「Ta tau」から来ています。見た目は黒く塗りつぶした柄なのですが、世界中にたライバルタトゥーはあるはずなのに、どこも似たような絵柄なのがとてもおもしろいところです。アイヌや琉球王国の部族が入れていたものもトライバルになります。魏志倭人伝に出ていた倭人の刺青はトライバルです」

 ちなみに、刺青(和彫り)とタトゥー(洋彫り)の違いは、彫り方という意味での違いは現代はほとんどはなく、絵柄がどこから来ているかだけだそう。 

 

プロが選ぶ、「本当にクールなタトゥー」の欧州フットボーラー

 
 では、EUROに出場したフットボールスターたちのタトゥーは、ぶっちゃけどうなのだろう。彫晴に厳選してもらった。

まさかの「サッカー選手のタトゥー汚い」発言に、「あ、この企画ダメかも」一瞬思ってしまったが、やはりイケてるタトゥーの選手はいた。

「結局本人が納得していればそれでいい」としながらも、彫晴が挙げる「かっこいいタトゥー」の条件は以下。

  • 全体としてまとまっているもの
  • 色が綺麗に入っているもの
  • 線がブレずに美しく入っているか

 

1.ウラジミール・ヴァイス(スロバキア代表/MF)

<彫晴コメント>
同じ彫り師が結構計画的に彫っていると思います。スタイルはニュースクール(アメリカントラディショナルをリアルにして、カラーにしたもの)で、統一感もあり、かつ自分の好きなものをいれつつという、若い人が好むおしゃれなタトゥーです。両肩のタトゥーはトライバルです。

 

2.セルヒオ・ラモス(スペイン代表/DF)

 

Sergio Ramosさん(@sr4oficial)が投稿した写真

 

Tú nos has llevado hasta aquí. Nos has guiado a #LaUndécima. Gracias, leyenda. / Thank you, legend. @zidane

Sergio Ramosさん(@sr4oficial)が投稿した写真 –

https://twitter.com/SergioRamos/status/472516971733716994

<彫晴コメント>
色の入りかた、線の美しさ、とても綺麗に入っています。左腕はブラックアンドホワイト。右腕は基本ニュースクールで、オールドスクールをちょいちょい差し込んでいます。オールドスクールというのは、ドイツ、アメリカで船乗りが入れていたタトゥーの柄のことをいいます。

ふくらはぎのタトゥーも綺麗に入っています。何より、このタトゥー(左足にCL、右足ににW杯の優勝トロフィー)は彼にしか入れることができないもの。これを世界に入れることができるひとが他に何人いるのか、ということを考えると唯一無二のタトゥー、まさに「オリジナル」なタトゥーです。

 

3. ジェローム・ボアテング(ドイツ代表/DF)

 

Finally👌 #maracana #brazil #worldcup2014

Jerome Boatengさん(@jeromeboateng)が投稿した写真 –

<彫晴コメント>
綺麗に入ってますね。足のトロフィー(2014年W杯優勝後に「マラカナン」の文字とともに彫ってある)はかなり上手です。ぼかし、陰影もあって、かつアーティストのオリジナルな要素も垣間見えます。

左腕はマオリスタイルのトライバル。背中中央にあるのは、サクヤンというタイの僧侶がいれる伝統的なタトゥーです。リアーナやアンジェリーナ・ジョリー、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのアンソニー・キーディスが入れていることでも有名で、すごく流行ってるスタイルです。

 

4.ズラタン・イブラヒモヴィッチ(スウェーデン代表/FW)

<彫晴コメント>
もともとあったものに加えて、貧困・飢餓に苦しむ50人の名前を消えるタトゥーで入れ、世界にアピールしたというもの。特にうまいというわけではないですが、これをかっこよくないとはいえません。一時期、消えるタトゥーは日本でも流行って、かつ問題にもなりました。「消えねーじゃねーか!」という。消えるタトゥーは、要は『浅く彫る』というもの。一定の浅い位置に入れ続けなければならないので、相当な技術がないと不可能です。さらに、完全に消すというのは実はかなり難しい。それを踏まえると、尚更素晴らしいと思います。『入れるひとがかっこいいとタトゥーもかっこいい』ということがいえる例でしょう。また、背中にはサクヤンも入っています。

 

〜番外編〜

EURO2016に参加していない選手

ナイジェル・デヨング(オランダ代表/MF)

 

ndjofficialさん(@nigeldejong)が投稿した写真

 

ndjofficialさん(@nigeldejong)が投稿した写真

<彫晴コメント>
一番いいと思います。とてもまとまっていて、かつ綺麗に入っています。絵柄はマンダラ、アジアンテイストを意識しています。ブラック&ホワイトですが、もしかしたらドットタトゥー(点で柄を描いたもの)かもしれません。マンダラをドットタトゥーでやるのがヨーロッパでとても流行っていて、流行りもしっかり取り入れていますね。ドットタトゥーはオランダかベルギーのアーティストが最初にやったといわれています。 

 

ラウル・メイレレス(ポルトガル代表/MF)

<彫晴コメント>
背中の龍は、外国人のかたが彫ったか、外国人に合わせた和彫りですね。和彫りはもともと、ふんどし一丁になったときにどう見えるかが大事であったため、お尻までいくのがトラディショナルなかたちです。ズボン文化からきた和彫り風のものといえますね。

 

残念な日本語タトゥー

エデン・アザール(ベルギー代表/MF)

<彫晴コメント>
外国人の残念な日本語タトゥーはよく話題になりますが、翻訳する日本人が冗談でいったら、後日そのまま入れてた、みたいなこともあるので、実は日本人が原因なこともあります。彫り師としては一応意味などは教えますが、本人も冗談とわかってて入れることも実際によくあります。経験上一番おもしろかったのは、「God(神様)=矢沢」「Bad boy、Gangsta(不良)=六本木」です。

 

 いかがだっただろうか。タトゥーは装飾用以外にも医療用タトゥーや、障害や傷跡をポジティブに捉える、または隠すためのタトゥーなど、様々な顔を持つ。とはいえ、私たちの国では、刺青を入れることで様々な弊害があることも事実で、欧州の価値観をそのまま当てはめることはできない。

ただ、フットボールはそんな私たちの知らない世界だって教えてくれる。タトゥーもまた、スポーツの枠に収まらないフットボールをさらにおもしろくしてくれる。世界中の注目を浴び、深夜の眠気も吹き飛ばしてくれたEURO2016だが、祭りの余韻とともにどっと押し寄せる、「EURO疲れ」に効くスパイスになれば幸いだ。

 

取材協力:彫晴

彫晴(ほりせい)
国内を中心に、ヨーロッパでも活動するタトゥーアーティスト。
東京にてタトゥースタジオ「TRIP ON DESIGN TATTOO」の代表を務める。
TRIP ON DESIGN TATTOO /Facebook
TEL: 03-3487-1863

 

footballista(フットボリスタ)
欧州各国リーグ、チャンピオンズリーグ、国際大会から南米サッカーまで。注目試合マッチレビュー&プレビューを中心に、個性豊かな執筆陣によるオリジナルコラムやインタビューなど、世界のフットボールシーンを視点の定まった記事で届ける海外サッカー情報誌。 
http://www.footballista.jp/

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About Takuya Wada

Takuya Wada
和田拓也: DEAR Magazine編集長。バンドマンやらシステムエンジニアやら世界1周を経て、NYのデジタルマガジン、HEAPS編集部でインターンシップとして勤務し、企画から取材、執筆を担当する。その後、DEAR Magazineを立ち上げる。カレーと揚げ物が3度の飯より好き。

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