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外国人指揮官が海外オファーを蹴って選ぶのはなぜ? 千葉の「超ローカル型サッカークラブ」を訪ねた

「市原の、市原による、市原のためのチーム」。こういった触れ込みはよく使われるものだけど、千葉にある、とあるアマチュアサッカークラブの試みは、日本フットボール界ではおそらく初めてのものだ。かつてイビチャ・オシムが千葉から日本サッカーに巻き起こした旋風から十余年。千葉でまた起ころうとしている、新しい風とはいったい何なのだろう? チャリ日本一周の旅路で、実際に聞いてみた。

Photo on top by Wataru Shigeta

 
高台に立つクラブハウス

 
 起伏の激しい山道を抜け、眼前に広がるのは市原市の豊かな自然を捉えた眺望。野鳥の声も聞こえる。 

 ここは市原市喜多。緑生い茂る高台から遠方を望む開けた裾野に、VONDS(ボンズ)市原のクラブハウスはある。

 クラブハウスの前に立つ。ここで頭にはてなマークが。なんだろう、この引っかかる感じは。微妙な違和感を抱きつつ、目の前のドアを叩いた。

 対応してくれたのは、広報の梶山由珠(かじやまゆず)さんと、VONDS市原SECONDでプレーしながら株式会社 VONDS市原で営業を務める山根伸泉(やまねのぶみつ)さん。 自転車で日本一周と言うと、「こんなところまで自転車で」と驚いていた。

 まあ、大体そういう反応なんだけれど(笑)

 
「市原の、市原による、市原のためのチーム」

 
 VONDS市原は千葉県市原市に本拠を置く市民クラブで、現在関東サッカーリーグ1部に所属している。前身の古河電工千葉を引き継ぎ、2011年、市原市サッカー協会の後押しにより「市民クラブVONDS市原」が発足。千葉県社会人サッカーリーグからその歩みを始め、順調にステップアップ。2013年に現所属の関東サッカーリーグ1部に昇格した。現在(2016年6月)リーグで首位に立っており、目指すは「今シーズンでのJFL昇格」だ。

 そんなVONDS市原だが、「チームの株主を市原市に携わる方限定」にするという、極めて珍しい挑戦をしているサッカークラブだ。市原市民、市原市在勤、市原市内の企業が株主となって運営しながら、本気でJリーグへの参入を目指している。

これ、おそらく日本フットボール界では初めての試みじゃないだろうか。株式会社VONDS市原は現在、法人253社と個人283名の株主によって成り立っている。

「市原」のみにこだわるのはなぜなのか。

「市原の市民に支えられ、育てられる、真の地域密着型クラブを目指すためです」

 そう梶山さんは話す。

「市原市に携わる方がクラブの基盤(株主)となることで、市民がクラブオーナーとしてクラブづくりに参画できる」

 とは営業の山根さん。

「市原の、市原による、市原のためのチーム」と言ったところだろうか。市原にこだわる理由は、市原のクラブだという姿勢をチーム内外に示すためだという覚悟の表れでもあるか。

 写真撮影のため外に出ると、大柄な外国人とすれ違った。チームを率いるゼムノビッチ監督だ。以前清水エスパルスで監督を務め、タイトル獲得経験もある。

 予定にはないが、冗談半分で監督にインタビューできませんかと梶山さんに頼む。

 そして5分後、監督にビビりながら質問を投げかけるぼくがそこにいた。

海外からのオファーを蹴って、日本のローカルクラブへきた理由

 
「このチームの魅力はなんでしょうか」というぼくの問いに、

「理念。そして環境面だ。J2のクラブにも劣らない練習環境があるのは大きいね」と、すぐさま監督の答えが返ってきた。

Photo by Yuki Honda

 
 ゼムノビッチ監督はVONDS市原の監督に就任する際、海外からのオファーも複数受け取っていたが、迷うことはなかったという。このチームの可能性により魅力を感じたと話してくれた。

 ここで冒頭に記した違和感の正体がわかった。監督が言うように、VONDS市原には、関東サッカーリーグ1部所属のチームにしては破格の設備が整っているのだ。

 チームが本拠を置くVONDSグリーンパークは天然芝・人工芝それぞれ1面を完備、そのグラウンドを幅18メートルの林「グリーンベルト」で覆い、自然の中でサッカーができる雰囲気を作り出している。

喜多グランドイメージ
喜多グランドイメージ

 
 クラブハウスには、チーム専用ロッカールームと一般貸出用のロッカールームが2つ、フロント、会議室、多目的室、監督・コーチ室にトレーニングジムがあるほか、一般の方がグラウンドを眺めながらくつろぎ、選手との交流もできるVONDSカフェがある。

 確かに、J2に所属するチームにも引けを取らない充実ぶり。環境がすべてではないが、リーグ戦で首位に立つ要因の1つが、この点にあることは間違いない。まあどうしてここまでのものが揃っているんだろう。

「この環境があるのも、市原の皆さんのおかげなんです」と梶山さん。

 なんと、前述した株主募集により集まった資金で、このクラブハウスが建設されたのだ。選手たちは、市民の支援により、このような充実した環境のなかでサッカーができていることに日々感謝しながら、トレーニングに励んでいる。

 
地域とクラブの共存関係

 

「真の地域密着型クラブ」というだけあって、地域に貢献することも忘れない。その一つとして挙げられるのが、「VONDS市原」と「医療・福祉」の連携である。

 VONDSグリーンパークのすぐ隣には、特別養護老人ホーム「グリーンホーム」が並び建ち(これも史上初では?)、意図してここに本拠を構えたらしい。その距離は車いすの利用者様でも十分移動できる距離だ。グラウンドでは大人から子どもまでサッカーに取り組んでいる。その活気ある姿を間近で見ることで、施設の利用者の方が元気になる。

 VONDS市原に在籍する64名のうち、24名が前述のグリーンホームを含む市内医療福祉施設に勤めており、若い人材を求める介護の現場は大助かりというわけだ。このことが話題を呼んで、業界の専門誌に取り上げられたことも。

 さらに、VONDS市原の公式戦には施設の利用者の方や職員が応援に駆けつけ、その応援は間違いなく選手たちの原動力になっている。

 その他、所属選手全員(トップチーム)が市原市で働いており、労働力を地域に還元している。

 市原のクラブとして戦うという覚悟を志」に。充実の環境を「土台として、VONDS市原はかつてない挑戦を始めた。創立から5年。物語の帰結を想像するにはまだ早いが、クラブの未来は明るいのではないか。気力みなぎるスタッフ陣と、期待に応えつつある現場サイド。奇しくもゼムノビッチ監督は、オシム氏と祖国を同じくする。期待せずにいられない。

 近い将来、千葉から再びの革新が起こったとしよう。周囲の喧騒をよそに、なんでもないよという風な顔をしているやつがいたら、それはぼくだと思ってもらって間違いない。

 

VONDS 市原 HP
http://vonds.net/
Photos courtesy of VONDS 市原

 

2016年7月6日 ※弊サイトの不手際により、誤った記載、十分でない表現があったため、取材対象への影響を考慮し一時的に非公開にし、追記・修正させていただきました。読者の皆さまおよびクラブ関係各位にお詫び申し上げると共に、謹んで訂正いたします。

<修正箇所>
・営業担当山根伸泉さんの選手兼任に関して
・市原市のスポンサー具体的な内容
・練習環境に関して
・併設する特別養護老人ホームに関して

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About Honda Yuuki

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本田悠喜(ほんだ ゆうき):自転車に乗って日本一周中。気ままに放浪中。ビタミン不足中。 津々浦々、ボールの周辺で喜怒哀楽を紡ぐ人々の思いを届けるために、今日もチャリを漕ぐ。

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