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王族が入れ込む、ブルネイ・ダルサラーム国のサッカー

昨年、ロシアW杯予選で日本代表を脅かしたシンガポールサッカー。その国内サッカーでは昨季大波乱が起きていた。全てのタイトルを外国から参加するチームに持っていかれてしまったのだ。2つのカップタイトルは日本から参加するアルビレックス新潟シンガポールが獲得。そしてリーグタイトルはブルネイ・ダルサラーム国から参加しているDPMM FCが獲得した。


 ブルネイ・ダルサラームという国の名前を聞く機会はサッカー界に限らず、日常生活でもそうそう無いはず。有名なサッカー選手がいるわけでもなく、ロシアW杯予選では1次予選で早々に敗退しており、日本が登場する2次予選まで辿り着けなかった。過去にはアジアカップ予選で「ゴン」こと中山雅史選手に
試合開始3分でハットトリックを達成されている。そんな弱小国ブルネイのチームが何故、国外リーグに参戦してタイトル獲得に至ったのだろうか。その事情を紐解くと小国の苦悩とサッカーを愛する者の情熱が見えてくる。

 

勝利に歓喜するDPMM FCのサポーター
勝利に歓喜するDPMM FCのサポーター

 

サッカー好きの金満王族と切り離せないブルネイサッカー


 ブルネイ・ダルサラーム国は東南アジアのボルネオ島に位置し、北は南シナ海に面し、残りはマレーシアと陸続きとなっていて、面積は三重県とほぼ同じという非常に小さい国である。石油・天然ガス資源で非常に潤っており、約40万人の国民は
税金も払わずに様々な公共サービスが受けられている

煌びやかな王宮がブルネイ経済の潤いを物語る。
煌びやかな王宮がブルネイ経済の潤いを物語る。


 そんな夢のような国を治めているのは代々続く王族。地下資源で潤う彼らは世界屈指の富豪と知られていて、スポーツに対して深い造詣がある。ナショナルスタジアムは現国王ハサナル・ボルキアの名を冠している。そして同国で
屈指の人気を誇るバドミントンと共に、王族のサッカーに対する情熱は凄まじいものがある。人口40万人のこの国で、他国と同じやり方をしても分が悪い。そこで王族は持てる力を存分に発揮してこの国のサッカー発展に尽くすのである。

国王の名を冠したハサナル・ボルキアスタジアム。手前には王族のための席が。


 2000年代に入って王族は王子が過去にGKとしてプレーしていたDPMM FCの強化に乗り出す。強化はすぐに実を結び、ブルネイ国内のタイトルを頻繁に獲得するようになった。その後はより高いレベルでの戦いを求め、2006~2008年には隣国マレーシアリーグに参入。そして2009年からはシンガポールのSリーグに参入している。初年度からリーグを掻き回し準優勝という成績を収めた。

決定機を逃し頭を抱える王子と関係者。反応がとても人間らしく親近感すら感じた。
決定機を逃し頭を抱える王子と関係者。反応がとても人間らしく親近感すら感じた。


 しかし、
王族のサッカーへの介入があまりに度を過ぎてしまい、2009年から2011年までFIFAから資格停止処分を受けてしまった。この間は代表チームの活動が認められず、ブラジルW杯予選には不参加、DPMMもSリーグに2010年から2シーズン参加できなかった。それでもこの国では王族の力は絶対。2年で資格停止処分は明けて、再スタートを切ってもその権力と資金力でブルネイサッカーの発展に力を注いできた

 

選手よりも王族の扱いが大きいブルネイ


 

これは今回観戦した試合翌日の新聞。選手よりも観戦に訪れていた王族の扱いが大きい。これがこの国のサッカーの在り方。王族の存在とサッカーは切り離せないのである。

先発11人のうち5人が外国人選手のDPMMイレブン
先発11人のうち5人が外国人選手のDPMMイレブン

 昨季までのSリーグは外国人枠が5人と他の国に比べて多かった。DPMMがSリーグで強豪としてやっていける大きな要因はここにあった。ブルネイ人のプレーヤーはスタメンに6人居れば良い。チームの半数近くに潤沢な資金を使って良質な外国人を据えることで、リーグでも屈指の戦力を揃えることができたのである。昨季DPMMで戦った外国人選手はいずれも海外リーグでの実績がある選手で、監督にもブラックバーンを率いてイングランド・プレミアリーグを戦ったスティーブ・キーンを招聘した。

イングランド・プレミアリーグでも指揮を執ったスティーブ・キーン監督(真ん中)
イングランド・プレミアリーグでも指揮を執ったスティーブ・キーン監督(真ん中)

 そして金にモノを言わせる土壇場の決断力が成功を生む。監督の強い要望で獲得し、補強の目玉であったイングランド人FWクレイグ・ファガン(ハルシティなどでプレー)が早々に長期離脱を余儀なくされた時のこと、DPMMは彼をすぐに契約解除とし、代わりにポルトガルの世代別代表を経験し、前シーズンにはキプロスのチームでUEFAヨーロッパリーグ本戦にも出場したプレーメーカーのパウロ・セルジオを獲得しすぐに穴を埋めた。結果的にパウロ・セルジオの卓越した戦術眼と最前線に君臨する長身ブラジル人FWハマゾッチの相性が非常に良く、2人の力でゴールを量産。初優勝への大きな原動力となった。

ただの王族の道楽ではない

 王族による経済面での支援は、レベルの高い選手の獲得だけでなく、長いシーズンの半分を海外で戦わなければならないDPMMが長年海外リーグに参入し続けられる点で大きな意味を持つ。王族がただのサッカー好きで単に有名選手を観たいのであれば、国内リーグに多額の資金を投じて各チームに分配し、それぞれが有名選手を引っ張れば良い話。わざわざ国内の1チームをずっと海外リーグに参加させ続ける意図は、自国の選手に海外のサッカーを経験させ、自国のサッカー発展に繋げるという高い志があるからに違いない。昨今のフットボール界を騒がせる富豪とは一線を画す、真剣なお金の使い方だと筆者は感じる。

「DPMMの強化は代表チーム強化に繋がる」

 優秀な選手監督の中で練習をしていたら、ブルネイ人選手のレベルも自ずと上がるものである。実際、昨季のSリーグ最優秀若手選手賞をDPMMのブルネイ人選手が獲得している。Sリーグには、シンガポールU23代表とほぼ同一チームであるヤングライオンズが所属しているが、それでも彼は優秀なシンガポール人を差し置いてこの賞を獲得した。

 

 そしてDPMMに所属するブルネイ人選手がブルネイ代表チームの大半を占める。つまりDPMMを強化することは代表チームの強化とほぼイコールなのである。冒頭でブルネイ代表はロシアW杯1次予選で敗退と申し上げたが、今回の彼らはノーシードながらシード国である台湾相手にアウェイでの第1戦で1-0で制し金星を勝ち取っている。これはブルネイ代表にとってW杯予選での初勝利でもあった。

格上相手に勇敢に戦い、少ないワンチャンスをモノにした。歴史的得点。
格上相手に勇敢に戦い、少ないワンチャンスをモノにした。歴史的得点。

 この試合を筆者は台湾で観戦していた。当然、台湾が勝つものだと思っていた。台湾の主力選手不在も響いたが、ブルネイ代表は敵地で堂々とした試合を展開。台湾選手のおぼつかないパスを中盤でカットし、早めに前線へ展開する単純明快なショートカウンター中心の戦いであった。精度はそれほど高くなかったが、格上相手に臆することなくラインを高めに保ち、それを90分通して継続しすることで常に可能性を感じさせた。そして台湾のGKがハイボールへの飛び出しを誤ったワンチャンスを逃さなかった。虎の子の1点を守ったブルネイ代表が歴史的勝利を収めた。自国での第2戦に0-2で敗れ、惜しくも1次予選突破とはならなかったが、選手たちには確かな手応えを感じられた予選となったはずである。

2戦合計スコアで敗れるも、ブルネイサッカーの歴史に確かな1歩を刻む勝利だった。
2戦合計スコアで敗れるも、ブルネイサッカーの歴史に確かな1歩を刻む勝利だった。

 この8ヶ月後にブルネイDPMMはSリーグ初優勝を果たした。2015年はブルネイサッカーが間違いなく、大きく成長した1年となった。

まだまだ苦しい立場のブルネイサッカー

 それでも今後のブルネイサッカーの道のりは平坦ではない。まずSリーグは2016年シーズンから外国人枠が3人に削減することとなった。これはマレーシアリーグに越境参加していた実質シンガポール代表のチーム、ライオンズⅪの撤退により、多くのシンガポール代表選手がSリーグに戻るため、シンガポール人選手の出場機会の確保のためとされている。しかし、強力な外国人選手を擁するDPMMの優勝とタイミングが被り、そのためのルール変更とも揶揄されている。今後はよりブルネイ人選手の力が試されることとなる。


 そして、代表チームはロシアW杯1次予選に敗れたことにより、実は2019年アジア杯への道も閉ざされてしまった。今回のW杯予選は2019年にUAEで開催されるアジア杯の予選も兼ねている。我らが日本代表も現在戦っている2次予選をグループ首位で突破すれば、その時点でアジア杯出場が決定することとなっているが、1次予選敗退チームには敗者復活の余地すらない。

台湾に勝利して喜びのひととき。この歓喜を次は自国のサポーターの前で実現したい。
台湾に勝利して喜びのひととき。この歓喜を次は自国のサポーターの前で実現したい。


 ブルネイ代表はアジアレベルでの公式戦が2022年カタールW杯予選まで全く無く、ASEAN地域の大会スズキカップくらいしか公式戦を戦えない。代表チームの試合がほとんどない状態で国内のサッカー熱を保っていくことは想像以上に難しいだろう。それだけに今後のDPMM FCの活躍に大きな期待が掛かっている。DPMMと共に強くなったブルネイ代表と、我らが日本代表が再び公式戦で顔を合わせる日が楽しみでならない。

Photos by footysab

 

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footysab: フットボールという物差しを片手に、日本のみならず世界を旅するトラベラー。プレーする人、サポートする人の数だけ、様々なフットボール観があって、それを確かめに行く旅はとても楽しいものです。貴方のフットボールライフをちょっと豊かにする気付きになってもらえたら、不器用ですがそんな想いで各地で見てきたものを書き留めていきます。

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