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GKパフォーマンス向上のための脳神経。「ハンド・アイ・コーディネーション」

160キロ近いボールを瞬間的に捉え見事にコントロールする、日本が生んだ野球の天才イチローが米国で絶賛された能力。それは、興味深いことに欧州の強豪で活躍する名守護神が重要視するスキルと同一のものだった。Hand-eye-cordination(ハンド・アイ・コーディネーション)。視覚で得た情報からアクションに移すまでの脳神経のプロセスをさすが、完璧に呼応する単語はないものの、「手と目の協調関係」と訳すのが解りやすいかもしれない。

チェコ代表守護神ペトル・チェフ。アーセナルでGKとしての給与最高額を更新し、クリーンシート(無失点)記録を破るなどの活躍を続ける彼のインタビューから、ハンド・アイ・コーディネーションを向上させるトレーニングについて考えていこう。

ハンド・アイ・コーディネーションとは

 ハンド・アイ・コーディネーションは、日本ではあまり馴染みのない言葉かもしれないが、英語圏では様々なスポーツ、外科手術、音楽などで頻繁に使われる単語だ。稀に「反射神経」と訳す事もあるが、これは少し誤解を招く表現と言っていい。例えば、モニターを見ながら内視鏡手術を行う繊細な外科手術を求められる外科医にとって必要なのがハンド・アイ・コーディネーションだ。しかし、これを反射神経と訳すのは意味が違ってくる。


 より学術的な定義に踏み込めば、「視界的なシステムがインプットした情報を整理し、筋肉の動きをコントロールするシグナルを出す」一連のプロセスをハンド・アイ・コーディネーションと称する。とても単純なものに思えるが、これは得られる情報が多くなる状況になればなるほど複雑なスキルとなる。


 解りやすい対象物を見るだけでなく、「様々な目に映る物質を区別しながら手を正確に動かす」、となると神経的に繊細なシステムが求められるのだ。スポーツで求められるハンド・アイ・コーディネーションには、正確性だけでなく速度が求められる。


ペトル・チェフが語るハンド・アイ・コーディネーションの重要性。

 London evening standardのインタビューに対して、ペトル・チェフはフランス人コーチChristophe Lollichonの練習について語った。彼はレンヌのアカデミーで指導をしていたが、能力を評価されてトップチームに昇格。チェフを指導する事になる。2007年にはチェフの推薦で、イングランドの強豪チェルシーへ。

 チェフは彼によって「選手としては普通見えないものを、常に見るように意識付けられた」と言う。ピッチ内に立つプレイヤーとしての目線と、ピッチ外からそれを見守るコーチとしての目線。ある意味では2つの目線を意識しながらプレーしたことで、チェフのフットボール観、ゴールキーパー観は磨き上げられた。実際、彼のGK論は非常に繊細に言語化されている。

「15年間プロのGKをしている人間に、15ヤードから蹴られたボールを取り続ける練習には意味が無い。結果的に、その距離からのボールだけをキャッチ出来る選手にしかならないからね。」

 彼は、GKというポジションにとって、単純な練習のみではトップクラスになることは難しいという事を示唆している。そして、今回のコラムでキーワードとなる言葉が、彼の口から語られる。

「複雑な練習を取り入れないと、脳は働いていかない。だからこそ、我々は大きなボールから小さなボールまで、様々なボールを使いながら練習を行う。何故なら、ボールが変化していく度にハンド・アイ・コーディネーションを適応させていかなければならないからだ。突如、君の脳は動き出すことになる。色を使うのも良いアイディアだろう。色のついたボードを掲げても良いし、コーチがシュートを撃つ時に色を叫んでも良い。選手はその状況で、多くの事に集中する必要が出てくる。それが、周辺視野を広げることにも繋がる。ただ単純にボールを取るだけとは違い、脳が働くことになる。」


ハンド・アイ・コーディネーションを向上させるトレーニング

 ハンド・アイ・コーディネーションを適応させていくことが、GKの練習において1つの重要なキーワードになっているのは間違いない。ではここからは、オレゴン州のPacific Universityでスポーツのインストラクターなどを務める専門家Fraser Horn(フレイザー・ホーン)の「ハンド・アイ・コーディネーションを向上させるトレーニング」という記事を使いながら、どのように他のスポーツで使われているトレーニングがGKの能力向上に寄与するのかを考えていきたい。

 ホーン氏は「神経系を鍛えることにより、インプットとアウトプットの間にかかる時間を限りなく0に近づけることが必要だ」と語る。つまりGKであれば、シュートが撃たれる状況を目で捉えてから、時間をかけずにシュートコースを塞げるように身体が動くことが理想的だ。目から脳、そして手へと繋がる情報の循環を出来る限り無駄なく、効率的に行わなければならない。


1、キャッチの練習をせよ。

 アメリカン・フットボール界では名コーナーバックとして知られるダレル・リーヴィスは、テニスボールを使った練習によってハンド・アイ・コーディネーションを向上させたことで知られている。

 相手のパスをカットすることに優れた守備の要は、複雑な形状のボールが回転することを見抜き、冷静に弾き出す。壁などにボールをぶつけ、テニスボールを片手でキャッチする練習は、実際に彼が行っていた練習だと言う。また、2人組になってテニスボールを投げ合うことは、更に複雑な練習を可能にする。自分の背後や左右にボールを投げたり、バウンドさせたりすることは、脳の働きを高めることに繋がるだろう。

 コスタリカ代表、レアル・マドリードで活躍するケイラー・ナバスも、テニスボールを使った練習でハンド・アイ・コーディネーションを鍛えている。

 チェフのインタビューでは、色のついたボールを使うことの重要さについて触れられているが、ホーン氏によれば文字や記号を使うことも効果的だ。彼は、「ハンド・アイ・コーディネーションに加え、周辺視野的知覚能力を高めることが可能」と述べている。簡単に噛み砕くと、「ハンド・アイ・コーディネーションを高めながら、一瞬で多くの情報を収集する能力を鍛えることが出来る」と言えるのだ。


2、ジャグリングをせよ。

 ホーン氏によれば、ジャグリングの練習はハンド・アイ・コーディネーションを向上させることに役立つ。日本の伝統的な文化で考えると、お手玉だ。

「あなたがジャグリングをしている時、あなたの目はボールが最も高くなる点を追うでしょう。そして見た情報を使って、どちらの手をどこに動かしていくかを決定しなければならないのです。この練習は、ハンド・アイ・コーディネーションの向上に最適です。実際、我々は全てのアスリートにジャグリングの練習を行わせるようにしています。」

 彼が語るように、脳と手を瞬間的に動かすことを目的としているハンド・アイ・コーディネーションの向上には、ジャグリングは有用なトレーニングになり得る。練習が簡単に感じるようになってきたら、バランスボードの上に乗って行うなど、様々な負荷をかけていくことで脳に複雑な処理をさせることも重要だ。例えばジャグリングをしている最中にテレビやラジオを使って音声的な邪魔を入れることや数学の問題を解かせることなどで、練習は難しいものになっていく。脳にかかる負荷を高めることで、より緻密な動きが可能になるのだ。


3、目を鍛えろ。

 コンディショニングコーチとして活躍するJosh Sandell(ジョッシュ・サンデル)によれば、目を鍛えることは重要だ。これは視力を上げるトレーニングをするということではなく、様々な位置にある物体を認識する能力を鍛えるということだ。例えば試合中にゴールキーパーは、目の前にいるDFと遠くにいる相手を連続的に認識し続ける必要がある。同じ点をずっと見ている訳ではなく、見ていく点の距離が変わっていくのだ。たった数分の練習で、そういった能力も鍛える事が出来る。

 まずは、同じくらいのサイズで、細かい作りになっている2つの物体を用意する。例えばカードゲームなどに使うカード、本のカバー、雑誌などだ。1つを君から45cm離れたところに置き、もう1つを3m離れたところに置く。最初に5秒間近くの物体を集中的に見て、出来る限りの特徴を見つけ出す。次に5秒間遠い物体に集中し、同様に特徴を見つけ出す。これを繰り返しながら、毎回別の特徴を見つけ出すようにしながら1分間程度続ける。

 こういった練習によって、視野において集中する物体を変えるスピードを鍛えることが可能なのだ。また、左右の同じ距離に物体を置き、同様な練習を行うことも効果的だ。縦の動きだけではなく、横の動きを向上させることが出来る。この能力は、迅速にボールを視界に捉える上で役に立つことになるだろう。


4、プレー中に意識しろ。

 サンデル氏によれば、本来ハンド・アイ・コーディネーションは無意識的に使っていくものではない。彼は、カルガリー大学の研究者が行った「バスケットボール選手に、数秒フリースローの前にリングの一点を集中的に見るように指示したところ、フリースローの成功率が22%向上した」という研究を取り上げ、「少なくとも慣れないうちは、集中的に見るということは意識の中で行われるべきだ。徐々にそれが無意識的になってくるかもしれないが、意識的に行うことでパフォーマンスを向上出来ることもある。」とコメントしている。3番目に取り上げたような目を鍛える練習を試合のアップに組み込むなどの方法によって、常に意識していくことが重要だ。実際チェフはインタビューで語るように、「ハンド・アイ・コーディネーションの重要性」を意識しながら日々の練習、試合に臨んでいる。試合中にも集中的に見る意識を持つことで、それがビッグセーブに繋がるかもしれない。


5、ドラムを演奏しよう。

 最後のポイントは、ペトル・チェフの過去のインタビューにおいて語られたものだ。チェフはチェルシーに所属していた頃、同僚のGKカルロ・クディチーニの誘いを受け、プレーステーションでドラムを演奏するゲームを始めたらしい。「ドラムを演奏する際、四肢が別々の動きをしなければならない。複雑な手足の動きをコントロールする必要がある。脳にどうやって手足をコントロールするかをプログラムすることは、フットボールにも役立つ。ハンド・アイ・コーディネーションと、独立した手足の動き。ドラムを演奏する中で、ゴールキーパーは学ぶことも多いだろう。」

 リズム感を取りながら手足を動かす必要があるような音楽系のゲームは、ゴールキーパーにとってハンド・アイ・コーディネーションを鍛える助けになるのかもしれない。練習の無い日に楽しく音楽ゲームで遊ぶことが、日々のプレーに役立てば最高だ。

 今回は、5つのポイントに絞ってハンド・アイ・コーディネーションの向上について考えてみた。日本では「反射神経」という言葉が良く使われているが、より科学的な分野で使われているハンド・アイ・コーディネーションという単語を別の概念として捉え直す必要があるだろう。脳神経を鍛えることで、GKとしてのパフォーマンスは向上する。練習の中で指導者は経験的に理解していることだとは思うのだが、言語化することによって深く理解していくことに繋がるはずだ。常に思考を続け、より良い練習を行うこと。日々の練習だけが、未来の成功を作っていくのだ。

 

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About yuukikouhei

yuukikouhei
結城康平: DEAR Magazine 編集部で「KNOW」カテゴリ中心に編集、企画担当。やりたい事だけは沢山あるので、Dear Magazineと共に色々なことに挑戦していきたい。ジャンル問わずなんでも書く系。サッカー批評、Qolyなどに寄稿経験有り。今一番欲しいものは、新しいノートパソコンと可愛い小動物を飼える環境。好きなアーティストはエジンバラ出身のBlue Rose Code。

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