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「もう、ボールは蹴れない」。脳性まひから掴んだ、日の丸のユニフォーム/CPサッカー日本代表・大野僚久

「もう、ボールは蹴ることはできない」

そう担当医に宣告されたとき、現実を受け止めきれずにずっと泣いていたという。大野僚久。CPサッカー日本代表として、今月デンマークで行なわれる世界大会予選に初挑戦するサッカー選手だ。

CPとは、「Cerebral(脳からの)Palsy(麻痺)」の略で、CPサッカーは脳性まひ者7人制サッカーのことを指す。大野は15歳のときに脳内出血で倒れ、1週間生死をさまよった。普通の歩行すらおぼつかない絶望の中で考えこと。

「それでも、サッカーを諦めたくない」

 
突然起こった苦難、諦めきれなかったサッカー

 

 中学生の頃から本格的にフットサルへの転向を考え、高校1年生のときに湘南ベルマーレフットサルクラブのサテライトチーム「P.S.T.C LONDRINA」に入る。4月からチームの一員として練習に参加していたが、これから自分の身に降りかかる苦難を、このときは知る由もなかった。

「意識が戻ってからの記憶は曖昧ですが、完全に意識が戻ったらアイスを食べていました。アイスを食べていたことは覚えているんです。ちなみにスーパーカップです」

 いまでは笑いながらそう話してくれるが、練習中に脳静脈奇形による脳内出血で倒れてから1週間生死をさまよい、さらに意識が戻ってからの1週間は記憶が曖昧だったそうだ。何より一番辛かったのは大好きなサッカーができないということ。

しかし根っからのサッカー少年は競技への復帰を目指し、父の「一緒にリハビリをしてまた頑張ろう」という言葉をきっかけに4回の手術を乗り越えリハビリと奮闘する。

「リハビリ中に、いきなり走れると思って走ってみたら走れちゃいました。走れたときは凄く嬉しかったです。またピッチに戻れるって思いました。1回走っている途中に転んでヒビが入ったこともあります(笑)。でも、それ以上に走りたい気持ちが強かった」

競技復帰へ。光が差し込んできた瞬間だった。

 
リハビリを乗り越え競技復帰、そして日本代表へ

 

「今年の1月に今所属しているチームの練習に参加しました。環境も整っていて、リハビリのシェアもできるんです。自分と同じ障がいを持っているひとが笑顔でプレーをしていて、サッカーを愛する気持ちは障がいを持っているひとでも健常者でも一緒だなと思ったので、チームに入りました。海外では、プロリーグがあるんです。夢が広がりましたね。もっと状態をよくして、上手くなりたいって思いました」

 現在は横浜を拠点に活動する「横浜BAY.FC」というCPサッカーチームに所属。チームは毎年10月に行なわれる全国大会での優勝を目指し、日々練習をしている。そんな中、チームに所属してまだ間もない頃、小学生の頃から夢を見ていた「日本代表」になるべく、7月下旬からデンマークで行なわれる世界大会に向け編成されるCPサッカー日本代表の選考会に参加する。

「自信はあった」と話す彼は、見事に選考をクリアし、幼い頃からの夢であった「日本代表」になる。取材時に着てきてくれた日本代表ポロシャツの左胸には日の丸が輝いていた。

 CPサッカーは20164月に協会が設立され、日本代表新体制が発表された。日本は惜しくもリオパラリンピックの出場権を逃してしまい、さらに2020年の東京オリンピックでは種目から外れてしまうなど、世界に挑戦できる機会が減ってしまっているのが現状だ。

しかし、監督には横浜Fマリノスなどでのプレー経験がある元Jリーガーの安永聡太郎氏、コーチには府中アスレティックFCなどでのプレー経験がある元Fリーガーの梅田翼氏が就任し、パラリンピック種目復活さらに世界大会で結果を残すべく新体制が発足した。

「(健常者と同じようにサッカーを)できる前提で僕たちは話している。でも、できないことはちゃんと伝えていい」

 練習時にかけられた監督の言葉を胸に、大野選手は日本代表として強化トレーニングを重ね、7月29日からデンマークで行なわれる「CPF World Championships Qualification Tournament 2016」に挑む。この予選大会で8位入賞すると、来年アルゼンチンで開催される本大会「IFCPF World Championship」の出場権を得ることができる。

「まずは予選突破。来年アルゼンチンで開催される世界選手権に出ることですね。絶対に行きます!」

 そう意気込む大野選手は、初の世界大会に緊張を見せながらも心を弾ませる。初戦の相手はフィンランド。現地時間の7月29日18時キックオフだ。

 
大野僚久が持つ大きな大望

 
 日の丸を胸に戦うことはもちろん、フットサルへの競技復帰をも目指しており、最後には今後の目標について教えてくれた。

「状態を良くしてフットサルにもう一度戻ります。湘南ベルマーレですね。小田原アリーナのピッチに立ちたい。戻れたら嬉しいですよね。ロンドリーナに入ったころから、湘南ベルマーレの試合に出ることがずっと夢だったので。ロンドリーナや湘南ベルマーレのスタッフやコーチ、監督にはずっとお世話になっていました。病気した後も気にかけてくれていて、『いつか戻ってこい』っていってくれているんです」

 強いまなざしで先を見据える彼は、一度は閉ざされかけたサッカーへの道を「またボールを蹴りたい」その純粋な気持ちで再び道を切り開いた。持ち前の明るさとフットボールに対する情熱でこの先きっと私たちを驚かせるような成長を見せてくれるだろう。

CPF World Championships Qualification Tournament 2016」はYouTubeで配信されるので、ぜひ一人でも多くのひとに見てもらいたい。CPサッカーとはどういうものなのか。困難を自分で乗り越えていくひとりのサッカー選手が、世界でどのように輝くのか。私はこの目で見てみたい。

 

日本 vs フィンランド – CP Football 2016ライブストリーミング

Photos By Nana Fukasawa

 

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About Nana

Nana
Nana:サッカーとフットサル、湘南ベルマーレと育成年代が中心です。休日は一眼レフとノートを持って試合観戦。写真で会場の雰囲気・熱気を伝えることにハマっています。

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