Home / KNOW / サッカーの「決定力」ってなに?

サッカーの「決定力」ってなに?

日本のメディアが異常なほどに強調する「決定力不足」は、海外の文献などでは見かけることのない独特であいまいな言葉だ。実際、日本代表が組織的に守ることが出来る相手と対戦したときにゴールを奪えずに苦しむ傾向があることは事実なのだが、その「決定力不足」を改善するヒントは見えてこないのが現実。

改善を目指していくという文脈では、「シュート技術の向上」のように個人能力の話になってくることや、精神論的な方向に繋がっていくことが多いが、実際にゴール数を増やすために重要になってくるものとは何なのだろう。

今回は、2014年のW杯における得点パターンを分析した「テクニカル・レポート」と、英国にてコーチとして活躍中のJed Daviesが語る、「得点における3つの優位性」を参考資料として、「決定力不足」を読み解いていきたい。シュート練習だけでは、決定力不足は解決しないのかもしれない。

 
「黄金のゾーン」の存在

 
 まずは、
2014年のW杯を分析したテクニカル・レポートを読み解くことから始めよう。

 データが示す事実として、80%以上のゴールは金色で示された四角形のゾーンから生まれている。これを研究者達は「黄金のゾーン(Golden Zone)」と定義した。「ゴールに近い位置からシュートを撃った方が、シュートが入る確率が高くなる」というのはある意味では常識だ。この程度の事実は、恐らくサッカーに詳しくない人々でも感覚的に理解出来るのではないだろうか。近い位置からシュートを撃たれた方が、当然GKは処理しにくい。そして、当然「シュートが枠外に外れる確率」は下がる。

 2014年のW杯において、この「黄金のゾーン」から撃たれたシュートは全体の35.1%。一方で、このゾーンの外から撃たれたシュートは64.9%となった。この大会で優勝したドイツ代表のデータを見てみると、興味深いことが解る。ドイツ代表のシュートは、半分以上が「黄金のゾーン」から放たれていたのである。ポルトガル戦とブラジル戦に限れば、なんと7割のシュートをこのゾーンから撃ち込んでいる。

また、正確性においてもドイツ代表は驚異的な数値を示す。

上の表は、黄金のゾーンを3つに分けた場合、それぞれから放たれたシュートの決定率を示したものだ。全体で5割程度となったシュート決定率と比べ、7割を超えるドイツの決定率は驚異的なものだ。ブラジル戦とポルトガル戦のデータを抜きだせば、なんと867%。黄金のゾーンからドイツの選手がシュートを放てば、ほとんどがゴールに繋がったのだ。また、半分以上のゴールはワンタッチであることも興味深い。この狭いゾーンで、2タッチすることは機を逸することに繋がりやすい。ドイツ代表は「黄金のゾーン」から多くシュートを放ち、更にそのシュートはずば抜けて正確なものだった。

 敵に回すとメッシやクリスティアーノ・ロナウド並みに恐ろしい男、ドイツの陽気な点取り屋トーマス・ミュラーは「黄金のゾーン」の住人だ。シュートの大半を「黄金のゾーン」内から放っており、4本のゴールを決めている。青は枠内、赤は枠外、黄色はゴール、紫はブロックされたシュートを示しているのだが、驚異的なのはブロックされたシュートの少なさだ。

 密集地となる「黄金のゾーン」にどうやって効果的なボールを入れ、どうやってブロックされずにシュートに持ち込むか。決定力不足の解消には、そういった部分を考えていく必要がある。シュートの練習だけでなく、その場面を作り出す練習が必要になるのだ。最もゴールの可能性が高いエリアの共有は、自分勝手なプレーを減らすことにも繋がる。ドイツ代表が驚異的だったのは、「強引なシュートを撃つのではなく、チームのために黄金のゾーンを使う」という意識だ。例えば鋭いクロスや、速い縦パスの練習は効果的なものだろう。

 
3
つの優位性

 
 指導者
Jed Daviesは、この黄金のゾーンを包括的に理解しようと努めた。その結果、ペナルティエリアの各ゾーンからのシュート成功率をより細かく図示することに成功する。それが下の図だ。

画像引用元:Jed Davies | Developing Superiority For Goalscoring Positions via youtube

 
黄金のゾーンは横幅がより狭く設定され、エリア内の両脇は斜線によって区切られている。こうしてデータを見てみると、エリア内とはいっても「三角形のゾーンから放たれたシュートがゴールとなる確率」は
20%5回撃って、1回入れば十分ということになる。我々が「惜しい!!!」と頭を抱えている場面は、実際は惜しくも何ともないかもしれないのだ。

 
質的な優位性

 
 デイビスは、更に「
3つの優位性」が得点を決める上でポイントになると語る。1つ目は、「質的な優位性」だ。空中戦に強い長身ストライカーであれば高さ、スピード自慢の快速ストライカーであれば速さ、テクニック系のストライカーであれば技術。こういった部分での強みを生かすことによって、黄金のゾーンからシュートを決められる可能性は高まる。決定力不足だからシュート練習を増やそう、というのはここに該当するはずだ。この「質的な優位性」においては選手の個人能力が大きく関わってくる。

 
ポジショニングの優位性

 
 
2つ目の優位性が、「ポジショニングの優位性」だ。これは、恐らく決定力不足という部分で語られることが多くない部分だろう。相手よりも良いポジションを取る、もしくは相手を悪いポジションへと誘導することによって、当然相手DFにブロックされることなくシュートに持ち込むことが出来る確率は上昇する。

先ほど例として取り上げたドイツ代表のトーマス・ミュラーはポジショニングのスペシャリストだ。彼はスピードがとんでもない訳でも、パワーがとんでもない訳でもない。それでも、彼はゴールを決め続ける。シュートを撃ってからの正確性が「決定力」だと思われがちだが、実際はシュートを撃つ前の準備も同じくらい重要なのである。

レスター・シティと共に英国を驚かせた岡崎慎司は、それを体現する1人だろう。プレミアの舞台で活躍する彼は、ボールを受ける前の準備を誰よりも大切にしている。

 
量的な優位性

 
 そして
3つ目の優位性が、「量的な優位性」だ。ゴールを狙えるエリアに、相手守備陣と同数、もしくは相手守備陣よりも多い選手が入り込むことになれば、当然ゴールに繋がる確率は上がってくる。相手DFが処理出来ない状況を作り出せば、「黄金のゾーン」でフリーになることも夢ではない。

日本代表の場合、自陣に引いた相手に対して中盤でパスを回し続けているのにも関わらず、ペナルティエリア内に走り込む人数が増えてこないような状況も少なくない。同じ「惜しい」シュートでも、「1人で多くのDFに囲まれながらのシュート」と「複数人でマークを分散した上でのシュート」は別のものだ。

 
「決定力不足」ということばの罠

 
 総合的に考えると、決定力不足の改善に繋がる様々なヒントが見えてくる。「黄金のゾーン」にどのようにボールを入れ、どうやってそこからダイレクトでのシュートを狙うのか。そして、当然どのような練習が「黄金のゾーン」からの決定力を高めてくれるのか。ドイツ代表のレベルを目指すのであれば、このゾーンからのシュートは
7割を決める必要がある。

また、このエリアで相手のブロックを避けるにはどのような技術が必要で、どの位置にポジショニングすることがゴールに繋がるのかも考えていかなければならない。FWを孤立させないための、チームとしての取り組みも必要になる。どのようにボールを保持しながら、どこからエリア内に多くの人間を送り込むか、などだ。

 決定力不足は、シュート練習や精神修行のみで改善される「単純」なものではない。複雑に様々な要素が絡み合って生まれるゴールの仕組みと難しさを理解しなければ、いつまでも我々は「決定力不足」という便利な言い訳に頼り続けることだろう。

 

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

About yuukikouhei

yuukikouhei
結城康平: DEAR Magazine 編集部で「KNOW」カテゴリ中心に編集、企画担当。やりたい事だけは沢山あるので、Dear Magazineと共に色々なことに挑戦していきたい。ジャンル問わずなんでも書く系。サッカー批評、Qolyなどに寄稿経験有り。今一番欲しいものは、新しいノートパソコンと可愛い小動物を飼える環境。好きなアーティストはエジンバラ出身のBlue Rose Code。

Check Also

DAZNがクルクルしたときに見るべき、Amazonプライム無料映画10選

こんにちは、tkqです。 最近 …