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フェロー諸島、アイスランドとスポーツの幸せな関係

人口32万人のアイスランドがEURO2016のベスト8進出を果たした。少し遡ると、今大会の予選では人口5万人のフェロー諸島が元欧州王者のギリシャに2連勝するなど、ここ2年は北の島々の躍進が目を引く。いずれの地域も欧州の地図では端に位置し、サッカー界での立ち位置も同じだった。しかし、彼らはいま欧州サッカーの話題のど真ん中にいる。

 

 今回のアイスランドの躍進について、室内練習場が整備された頃から練習し始めた「黄金世代」が注目された。フェロー諸島も人工芝の改良に伴いレベルが向上しているし、これらの設備投資が競技力向上に大きく貢献している。

 しかし、それだけでは小国のシンデレラストーリーが生まれることはなかったと思う。なぜなら、「1年間通して練習ができる」「良いピッチでプレーできる」という多くのサッカー大国と同じスタートラインに立っただけに過ぎず、大国も同じように、もしくはさらに素晴らしい設備が整っているはず。設備投資だけでなく、指導者の育成や、幼いころから優秀な指導者と接する時間が長いことなど、様々な種が身を結んだ結果といっていい。

 じゃあ、そもそもそういった環境が実現したのはなぜか。答えは簡単で、地域で需要があったからだ。そうでなければアイスランド国内の指導者の7割がUEFAライセンスを取得することも、人口たった数百人のフェロー諸島の村に人工芝のピッチが整備されることもなかったはず。

ただ、そのシンプルな答えを作り出すのがもっとも難しい。世界でも突出してスポーツが地域の文化として根付いているこの2地域は、その難問を優しく、静かに解いてしまった。

 
スポーツへの門戸はいつでも、誰にでも開かれている

 
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 アイスランド代表の躍進の中で、人口32万人の中に成年男子のサッカープレーヤー数が3,000人いるとの情報を目にした人も少なくないだろう。日本の地方都市ほどの人口しかないアイスランドには成年男子のリーグだけでなんと5部リーグまで計74チームが存在している。フェロー諸島にもトップリーグ以外に2軍・3軍チームで構成される下部リーグが4部まで存在している。

想像してみてほしい。自分が住む、または近隣の人口30万人くらいの街に70ものサッカーチームがあって、リーグ戦を成していると。居住するほとんどの大人はサッカーしかしていないのではないかと思ってしまうだろう。

成年男子だけでなく、女子リーグや少年少女のユースリーグ、またシニアレベルの競技会まであるのだから、その気になれば誰でもプレーできる。

敷居の低さは、地元のサッカー場に行った時に実感することが出来た。

 アイスランド2部リーグのスタジアムを立ち寄った。トップチームが試合をするそのピッチで地元の子供たちが公園で遊ぶかのように、楽しそうにボールを蹴って遊んでいる。彼らはトップチームの練習が始まるまで、そこで自由に遊ばさせてもらっていた。(そして皆とても上手であった。)

 フェロー諸島でもこんな光景があった。

公式戦のハーフタイム。控え選手が練習するそのピッチにたくさんの子供たちが降り立って、それぞれが気ままにボールを蹴っている。選手たちもそれを気にする素振りすらない。これがここでは当たり前の風景なのだ。

よく考えてみれば、何のアポイントもなく1人の東洋人がこうして平気でアクセスできていること。それ自体が敷居の低さの何よりの証拠なのかもしれない。

クラブハウスは街の社交場で、日中は誰かしら人がいて、コーヒーカップを片手に住民がスポーツのことや世間話をする。スポーツクラブはプレーヤーであるかないかに関わらず気軽にアクセスできる場所なのだ。

 
様々なスポーツとの共存

 
 アイスランド・フェロー諸島のスポーツカルチャーの特徴として強調したい点は、サッカー以外のスポーツもとても親しまれていることだ。先ほどの話通りだと、島の住民が皆サッカーをしていないと辻褄が合わないにも関わらずだ。

 これは先ほどとは別のアイスランドリーグのサッカースタジアム。あのエイドゥル・グジョンセンも所属した強豪ヴァルル・レイキャビクのスタジアム。

綺麗なメインスタンドが映える、人工芝を用いたスタジアムだ。なんとスタンドの中には……

 広大な体育館が。そしてハンドボールの試合が開催されている。清掃員のおじさんは明日ここでドイツ代表とのハンドボール親善試合があるといっていた。

 こちらも国内強豪のKRレイキャビクのスタジアム。横のクラブハウスに入ってみると、

ここにも体育館。しかも今度はバスケットボールの選手が練習中だ。床を見るとバドミントンコートのラインもある。

 娯楽が少ない(フェロー諸島は特に)ということもあるだろうが、この2地域ではとにかく様々なスポーツが親しまれている。

バドミントン、卓球、バレーボールにバスケットボール。そして北欧圏ということでハンドボールはサッカーに負けないくらいの人気を誇る。男子ハンドボールアイスランド代表は世界選手権の常連、北京オリンピックで銀メダルを獲得している強豪国だ。球技だけではない。水泳やマラソン、柔道、シーカヤックや重量挙げ・ボディビルディングなど、そんなことまでやっているのかと開いた口が塞がらない。

ハンドボールはサッカーとの掛け持ちも多いスポーツ。現在のフェロー諸島の首相も若き日にはサッカーのGKとハンドボールのポイントゲッターを掛け持ちしていた。
ハンドボールはサッカーとの掛け持ちも多いスポーツ。現在のフェロー諸島の首相も若き日にはサッカーのGKとハンドボールのポイントゲッターを掛け持ちしていた。

 
 これだけ生活にスポーツが溢れていると、住民の運動能力の平均値はかなり高い。人口が少なくても、様々なスポーツに触れながら最終的にサッカーのエリートとして選ばれた人間はその時点で能力が高い。

そういった選手たちが年代別代表を経験し、海外クラブのスカウトの目に留まると、海外でプロ契約するために海を渡る。それぞれの場所で成長した選手たちが代表チームとして集まり力を発揮していくのだ。

様々なスポーツに取り組むことは相乗効果も生む。今回のEUROで印象的だった主将グンナルソンのロングスロー。十分な飛距離と絶妙なコントロールで数々のチャンスを演出するこの武器はハンドボールのプレー経験で培われたものだという。他のスポーツに触れることでサッカーでは鍛えられない筋肉や感覚を鍛えることも出来る。

キリンカップでのフリップスローで話題になったソルステインソンもまたアイスランド人の身体能力の高さを物語っている。
キリンカップでのフリップスローで話題になったソルステインソンもまたアイスランド人の身体能力の高さを物語っている。

 
 ちなみに今回のEUROに参加したアイスランド代表メンバーは全員が海外でプレーするプロ選手だが、全員アイスランド国内のチームでサッカーを始めている。

特筆すべきは彼らが名門・弱小問わず様々な国内クラブの下部組織から満遍なく輩出されていること。人口がほぼ首都レイキャビク近郊に集中するアイスランドだが、キャプテンのグンナルソン、大会中2得点を挙げたB.ビャルナソンといった主力が首都から遠く離れた人口およそ1万人の地方都市アクレイリ出身という点は島の隅々までスポーツの文化が高いレベルで行き渡っていることを示している。

 
日本のスポーツ文化はどうだろう?

 
 残念ながら、日本では全世代を包括する総合スポーツクラブという概念はまだまだ薄く、アイスランドやフェロー諸島のような、スポーツ環境を整えるのは不可能に近い。社会のありかた、スポーツ構造が違いすぎるからだ。

真似は出来ないし、必ずしも真似する必要はないが、学べることはいくつもあるはずだ。幼少年代の競技人口を増やす為に敷居を低くすること、特定の競技だけでなくスポーツ全体を底上げしていくことの意義。

30万人のアイスランドでも、5万人のフェロー諸島でも高い文化レベルに工夫を加えれば、競技力が向上し大きなことを成し遂げられることを証明した。

1億2千万人の日本はどうだろう。日本のスポーツ文化はまだまだ未成熟で成長の余地があり、いくらでも未来を明るくすることができる。アイスランドやフェロー諸島で見たような地域とスポーツの幸せな景色が増えれば、将来日本のサッカーが起こす奇跡を、必然として語れる日がくるはずだ。

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Photos by footysab

 

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