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PKを科学する。そこから浮かび上がる、GKが気を付けるべき「鉄則」

Photo on top : muni88 via Visual Hunt / CC BY

 

 W杯最終予選、ホームでの重要な初戦となったUAE戦で、GK西川周作をあざ笑うようにセットプレーからの失点が続いた。「UAEの誇りを守るために、全てを懸けてプレーしている」と試合後に語ったFWアハマド・ハリル2本のキック(FKとPK)が、容赦なく日本ゴールに突き刺さったのだ。

最新の研究によれば、「PKをストライカーが蹴った時、75%以上はゴールに繋がる」といわれている。そういった側面から考えれば、PKを取られた時点で失点を覚悟しなければならない。当然、PKを与えた守備陣のプレーにも疑問が残る。審判の不可解な判定に疑問が相次いだのも事実だが、時計の針を巻き戻すことは出来ない。

今回は、西川周作を苦しめた2本のキックを例として取り上げながら「守護神は、どのようにPK時の失点確立を下げるべきか」という難題に挑んでいきたい。追い込まれた日本代表が解決すべき1つの問題が、この試合で明らかになったのだから。

PKにおける「鉄則」

 様々な研究によって裏打ちされた事実が、1つある。それは、「PKにおいてGKが、キッカーがボールに触れる前に左右のどちらかへと飛ぶことは失点の確立を高める」ということだ。

左右両サイドの端に強いシュートを撃ち込まれた場合を想定すれば、当然相手がボールに触る前に動き出すことが必要となる。インパクト後に動き出しては、そのシュートには間に合わないからだ。

しかし、PK戦では常に「触れないコース」に強烈なシュートを撃ち込まれる訳ではない。中央寄りにシュートが向かうこともあることを考えると、「相手がインパクトする瞬間まで動かない」ことが「最適解」なのである。

当然、相手のシュートを完全に読み切った場合などは別だ。先に動くことでプレッシャーをかける場合もあるが、そういった動きは「確信」や「狙い」に裏付けられていなければならない。単純に勘に頼るだけでは、無謀なプレーとなってしまう。

 


 EURO2016でのドイツ戦、特殊な助走から外してしまったことによって世界中のメディアの「良いネタ」にされてしまったシモーネ・ザザのPKだったが、元々彼はPKを得意とする選手だった。

彼の得意パターンは助走のスピードを落とし、駆け引きの中で相手GKの動きを最後まで見極めること。しかし、マヌエル・ノイアーはザザのタイミングを外す助走にも動じず、徹底してキックのタイミングまでポジションを崩さずに我慢した。それによって、相手の動きを待つことが出来なくなってしまったザザは混乱し、シュートを大きく枠外に外すことになってしまったのだ。

ドイツ代表は、ソフトウェア企業であるSAPの協力を得てPKのデータを収集している。世界最高の守護神として知られるマヌエル・ノイアーは、相手キッカーのデータを把握した上で孤独なる闘いに挑む。

SAP 公式ニュースページより
SAP 公式ニュースページより

「SAP Unveils New Technology for German National Football Team Ahead of European Championship」
https://news.sap.com/sap-unveils-new-technology-for-german-national-football-team-ahead-of-european-championship/

複雑に22人の行動が絡み合う試合全体と比べて、PKはキッカーとGKの1対1。数的データを活用しやすい環境だ。SAPの集めるデータは、当然シュートの方向だけではない。助走のスタイル、視線の位置、フェイントの癖など、複合的に情報は分析され、相手キッカーは丸裸にされていく。



西川周作の「先読み」を利用したアハマド・ハリル

 試合後のインタビューにおいて、アハマド・ハリルは「突如オマル・アブドゥッラフマーンが『ここは、君が蹴った方が良さそうだ』と囁いてきた」と述べた。

 

西川周作は明らかにUAEの中心であるオマルを強く意識しており、結果として強いシュートをゴール右端に突き刺されてしまった。西川はハリルの助走に合わせて、タイミングを取る時に左寄りに位置を変えるようなステップ。広い方を意識してポジションを取ろうとする先読みによって、完全に逆を取られてしまった。


 元々ハリルは中距離のFKを得意としており、非常に速いシュートを狙ってくる。そういったデータが、どこまで西川の中にあっただろうか。速いシュートを持つ選手が、近いサイドを狙うことは珍しくない。準備を重視することでも知られる西川だが、相手エースへの警戒を利用されてしまったのだ。

FKでの失点後に、西川や吉田といった「日本代表の守備を統率する選手達」は明らかに苛立った様子を見せた。その感情的な姿が、UAEにとっては「一筋の光明」になったのかもしれない。

ホームでのプレッシャーや、出し抜かれたことへの苛立ちこそ、UAE代表の突破口になり得るものだったからだ。実際、あの場面では同点に過ぎなかった。時間を考えても、過剰に焦るべきではなかったのかもしれない。

 PKにおいても、西川は「先読み」で動いてしまった。フリーキックで西川が一瞬先に動いていたこともあり、ハリルは「彼の逸り」を見逃さなかった。「冷静さを見せることで、相手を迷わせる練習をしてきた」と語ったUAEのエースは、中央に浮かせるシュートを見事に沈め、完全に西川を弄んでしまった。フランチェスコ・トッティの得意とする「クッキアイオ」と呼ばれる技術には、冷静さが求められる。

 

中央に残ることの「もう1つの利点」


 相手が蹴る瞬間まで我慢することの利点は、「中央寄りのシュート」を含めた広いシュートコースに対応出来ることだけではない。ドイツの研究者Philip Furleyを中心としたチームは、「GKがキッカーの注意を引き付ける」ことによって「シュートの正確性が落ちる」という研究結果を発表した。

彼らによれば「シュートを撃とうとする選手の注意を引き付け、撃たれた瞬間に動き出す」ことが出来れば、相手のシュートを止める確率は高まる。当然、相手のキッカーはGKの動きを見極めようとして観察する。

中央に長く残ることによって、相手の注意を長い時間「自分」に向けることが出来るのだ。先に動いてしまうと、相手はシュートコースへと関心を移すことになる。

それを防ぐためには、真ん中に残った状態で「相手の意識を自分へと向け、集中を乱す」工夫が必要になる。当然、悪口などの反スポーツ的な行為は許されない。論文内で1つの例として取り上げられたのは、2014年W杯におけるオランダ代表のGKティム・クルルの動きだ。

https://youtu.be/ZzA8wPlO1ys?t=126

 


常に細かいステップを踏み、相手キッカーに自分の姿を意識させる。過剰なまでの挑発的なパフォーマンスも、相手の集中力を削ぐための行動だったはずだ。PKを防ぐ目的で途中交代した彼は、実際にW杯の大舞台で重要な仕事を果たした。

また、身体を大きく見せるようなノイアーの動きも相手の視野に入ってくることでプレッシャーを与えるに違いない。そういった側面から見れば、PK時の西川は相手の集中を乱すことが出来ていなかったのだろう。


何故、GKは相手のシュートを先読みしてしまうのか?

 イスラエルの研究者Michael Bar-Eliを中心とした研究グループによれば「ゴールキーパーが中央に残ることが、最適な結果に繋がる」にも関わらず、どちらかに飛んでしまうことには理由があるという。

彼らの研究によれば、94%の確率で「GKは、左右どちらかに飛んでしまう」。それが正しい判断ではなくとも、彼らがそれを選択する理由について、Michael Bar-Eliは「アクション・バイアス」の存在を仮説的に主張する。

これは、「自ら行動を起こすことが、重要な結果をもたらす」という先入観のことである。GKにとって、「左右に飛ぶことによって、相手のシュートを弾きだす」ことがPKで求められる結果だ。

彼らにとって、中央に残ってゴールを決められる結果は許されないものだ。結果としては同じ失点であっても、GKにとって「左右に飛んだときの方が精神的に楽になる」のである。

実際、サポーターからのプレッシャーもあるだろう。中央に残るプレーは、一見勝負を放棄したようにも見えてしまう。


 こういった判断バランスのズレは、「多額の報酬が絡んでいて、強いプレッシャーを受ける」状況で現れやすくなるものでもある。満員のホームスタジアムと逆転される可能性があるプレッシャーの中で、西川周作が「先読み」してしまったのは自然なことなのかもしれない。

しかし、そういった「判断バランスの狂い」を「知っておくこと」は非常に重要だ。相手選手が、今回のようにそれを狙い撃つこともあるからだ。2度とも先に動いてしまった西川だが、次の試合で意識を変えることは難しくない。出来る限り我慢してインパクトの直前に動けるように心掛け、予備動作を増やすことで相手の注意を自分へと向ける。PKという「圧倒的にキッカーが有利」な状況でも、工夫によってセービングの確率を上昇させることは可能だ。

科学論文が示す様々な事実は、「PK戦というキッカーが優位となる場面において、GKがシュートを防ぐ可能性を最大化する」ことに繋がっていく。様々なデータ分析と、科学的な検証によって、試合の結果を変えることが出来るかもしれない。身長を伸ばすことは難しくとも、PKを止める確率を高めることは難しくない。そう考えれば、こういった研究を学ばない理由はないはずだ。

 

<参考文献>
Action bias among elite soccer goalkeepers: The case of penalty kicks (2007)
M Bar-Eli, OH Azar, I Ritov, Y Keidar-Levin, G Schein
Journal of Economic Psychology 28 (5), 606-621

Attention towards the goalkeeper and distraction during penalty shootouts in association football: a retrospective analysis of penalty shootouts from 1984 to 2012 (2016)
Furley Philip, Noël Benjamin, Memmert Daniel
Journal of sports sciences: 1-7.

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About yuukikouhei

yuukikouhei
結城康平: DEAR Magazine 編集部で「KNOW」カテゴリ中心に編集、企画担当。やりたい事だけは沢山あるので、Dear Magazineと共に色々なことに挑戦していきたい。ジャンル問わずなんでも書く系。サッカー批評、Qolyなどに寄稿経験有り。今一番欲しいものは、新しいノートパソコンと可愛い小動物を飼える環境。好きなアーティストはエジンバラ出身のBlue Rose Code。

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