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一流のサッカー選手を生み出す「10000の法則」

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10000」という数字を思い浮かべた時、一緒に出てくるイメージは何だろう。10000円札をイメージし、友達と一緒に美味しく焼肉を満喫している絵が浮かぶかもしれない。Kim Walker Smithの名曲「10000の理由」が浮かんでくる人もいるだろうし、「10000年と2000年前から」という歌詞を口ずさむ人もいるかもしれない。

欧州のサッカー選手育成について調べていくと、筆者は偶然にも2つの「10000の法則」に突き当たることになった。2つの法則は、ユースの育成に大きく関わるものだった。リオネル・メッシも、クリスティアーノ・ロナウドも、アンドレス・イニエスタも、ズラタン・イブラヒモビッチも、意識しているかは兎も角として2つの「10000の法則」によって一流選手への階段を上った。


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10000の法則」:1日に10000

 

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 近年フットボールの育成において非常に重要なポイントとなっているのは「子供たちがどれだけボールに触れるか」という部分だ。試合形式での練習をする場合、
8人制サッカーやフットサルが奨励される。狭いピッチで人数を減らすことにより、当然個々がボールにタッチ出来る回数が増える。

一列に並んでポストシュート、というような練習は欧州の最先端では好まれない。何故なら、並んで自分の番を待っている時間が無駄になってしまうからだ。パス練習とシュート練習を融合することで、他の選手も一緒に練習に参加させることは1つのアイディアだ。また、練習をサーキット形式にすることは待っている選手を減らす助けになる。個々が練習の密度を上げるためには「待つ」時間は極限まで減らさなければならない。

 宮市亮も所属したオランダリーグFCトゥウェンテでは、ユースの選手は1日の練習内で10000回ボールに触ることを目標とした練習がある。アップ形式の簡単な練習だが、こういった練習によって選手は「1日に10000回」のボールタッチを実現する。

それと比較すると、2011年にイングランドで行われた調査は驚くべきものだ。選手のタッチ数は1時間で1007005時間練習したとしても、タッチ数は最大で350010000回ボールにタッチさせることは、簡単ではない。

 当然、1回のボールタッチが全て同じ価値ではない。しかし、「10000回のタッチ数を毎日の練習で成し遂げた」ということは解りやすく選手の自信に繋がるはずだ。

当然、指導者としても数値としてある程度選手が経験したタッチ数が見えるのは良いことだ。それぞれ練習において「選手は平均で何回ボールタッチしているのか」というものを測定し、タッチ数を保証出来るように練習をデザインすることは欧州の基準に近づく1つの方法になるのかもしれない。

だからこそ、ジョゼ・モウリーニョやペップ・グアルディオラは「ただ走る」練習を否定する。走っている間は、ボールに触れることが出来ない。「ボールを使いながら、身体に負荷をかける」練習こそが、実際の試合に近い状況で十分なタッチ数を補填するのだ。

 

10000の法則」:通算で10000時間

 

 英国が誇る最高のジャーナリストのひとり、Malcolm Gladwellは、名著Outliers(天才-成功者達の法則)において「成功の法則」を発見しようとした。その中で彼が仮説的に取り上げたのが「10000時間の法則」である。


Malcolm Gladwell / Photo credit: Pop!Tech via Visual Hunt / CC BY

 
これは、「高度な技術を習得するためには、
10000時間の訓練が必要になる」というものである。この法則は、恐らくサッカーの世界にも適応することが可能だ。世界で最高の育成組織を持つとも言われている、スペインのFCバルセロナの場合を考えてみよう。

 20歳の選手がバルセロナの育成機関La Masia(ラ・マシアを卒業した場合、彼らは10歳から20歳までの10年間で5600時間を育成機関での練習に費やすこととなる。10歳までの練習は大体30005000時間程度と考えられていることから、自主練習などを含めれば平均で約10000時間の練習を経験することになるのだ。

 バルセロナの選手達が10年間で経験する5600時間は、次のように分類される。

 ・1000時間-管理された形での練習。ドリル形式と呼ばれるようなものであり、個人技術を学ぶ。また、ミスを修正していく時間も1000時間に含まれる。

・1000時間-ロンド。日本では「鳥かご」と呼ばれるパス練習で、守備側と攻撃側に分かれて狭いスペースでボールを繋ぐ練習となる。

・1750時間‐戦術的で、ポジショニングに関わるトレーニング。バルセロナのプレー哲学に基づいたものとなっており、明確な目的を持ったトレーニングとなる。

・1250時間‐試合形式の練習。結果は重要視されていないのが特徴で、戦術的なミスなどを正すことに集中している。シャビとイニエスタは育成年代で経験した試合形式の練習において、負けた試合の方が多かったという。

・600時間‐公式戦、練習試合などを含んだ試合

 

 ユースとしてプレーする10年間で、10000時間を積み上げること。恐らくトップクラスのユースチームとなれば、通算での練習時間には大きな差がないはずだ。ここで重要となってくるのは、10000時間をどのように割り振るかという部分だろう。それこそが育成の特色となり、選手の特色となる。

タッチ数をミクロの視点とすれば、練習時間はマクロの視点だ。10歳から20歳までの10年間、サッカー選手にとって最も重要とされる時期をどのように割り振っていくか。それこそ、指導者が強く意識すべき部分なのである。個人の練習に力を注いでいけば、より南米的なアプローチとなるだろう。戦術的な守備練習に力を注げば、イタリア的なアプローチとなる。


Photo credit: tpower1978 via Visualhunt.com / CC BY

 
 印象的なのは、
バルセロナが戦術的な練習に試合形式の練習を含めると合計で3000時間程度を費やしていることだ。自由なイメージが付き纏うバルセロナの攻撃サッカーだが、全ては緻密な理論によって支えられていることが良く解るだろう。鳥かごへの時間の振り方も、間違いなくバルセロナの特徴だ。

日本で難しいのは、必ずしも選手を10年単位で育成出来ないことなのかもしれない。しかし、1年の練習をどのようなバランスで割り振っていくのか。それを意識して練習をデザインすることは、長期的な育成において重要になるだろう。

選手目線でも、自主練習の割り振りを意識することはポイントだ。自分がどのような選手になりたいかをイメージしながら練習することで、その効果は高まる。

ミクロとマクロ。2つの「10000の法則」は、非常に単純だ。しかし、「サッカーは単純だが、サッカーを単純にプレーすることは難しい」というヨハン・クライフの言葉のように、単純な法則を形にすることは簡単ではない。単純な法則を意識することが、大きな一歩になるのではないだろうか。

 

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About yuukikouhei

yuukikouhei
結城康平: DEAR Magazine 編集部で「KNOW」カテゴリ中心に編集、企画担当。やりたい事だけは沢山あるので、Dear Magazineと共に色々なことに挑戦していきたい。ジャンル問わずなんでも書く系。サッカー批評、Qolyなどに寄稿経験有り。今一番欲しいものは、新しいノートパソコンと可愛い小動物を飼える環境。好きなアーティストはエジンバラ出身のBlue Rose Code。

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