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Photo credit: votoWorxx via Visual hunt / CC BY
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「デュエル」ってなに?日本代表から考える攻撃と守備の「距離感」

Jリーグのレベルは、年々高まっている。技術的に優れたリーグになりつつあるからこそ、多くのアタッカーが海外に移籍した初年度から存在感を放てるのだろう。

しかし一方で、日本のサッカーには大きな課題も存在している。興味深いことに、前日本代表指揮官ハビエル・アギーレと、現日本代表指揮官ヴァヒド・ハリルホジッチが指摘する「弱点」には共通点がある。

それは、ハリルホジッチの言葉を借りれば「ボールスピードとデュエル」であり、アギーレの言葉を借りれば「激しさ」だ。今回は、「激しさ」を定量的に捉え直すことを目指したい。

激しさとは、本当に身体的強さや、精神的な部分だけを指すものなのだろうか?

 

本田や岡崎が優れている、攻撃における「距離感」

 

 例えば、U-23代表が苦しめられたオリンピックアジア予選、イラン戦が好例だろう。現在、川崎フロンターレに所属する原川力は試合途中から、相手の激しいプレスをターンすることでやり過ごそうという工夫を見せていた。恐らく、背中を向けて自陣でボールを安全に繋ぐことによって相手の勢いを軽減出来るという判断からくるものだろう。しかし、イランの守備陣は中盤の原川がゴールを向いたことで、よりプレッシャーを強める。原川は何度かターンの途中でイランの猛烈な守備を浴び、ボールをロストしてしまう。

後ろからノーファールでボールを突かれるような形は、恐らくそこまで体感したことの無い感覚だったはずだ。自分が安全だと思っているボールの置き位置まで、相手の足が伸びてくる。

技術に関しては、非常に優れた選手も多い。しかし、その繊細な技術を試合の中で生かすには「距離感」の近い守備に慣れる必要があるのかもしれない。東京オリンピック世代も同様の問題に苦しんだように、「距離感が近い」守備への対応は年代に関わらない重要な課題だ。

距離感を潰し、自由を奪うような粘り強い守備にどう対処するか。こういったプレーには、ボディコンタクトが不可欠だ。フィジカルの強さだけでなく、タイミングや身体の使い方、ボールの置き所や球離れの工夫。足下のテクニックだけに頼らずに、執拗なマークを掻い潜る必要がある。

現在の日本代表では、本田圭佑や岡崎慎司を筆頭とした海外組がこういった対応に優れている。彼らは距離感を潰されながらプレーする欧州の基準に慣れており、岡崎もプレミアリーグの強靭なDFとやり合う中でそういったプレーに適応していった。

距離感を詰めて身体を寄せてくる相手に対応するには、フィジカル的な面を強化するだけでなく、相手を迷わせる駆け引きを増やしていく必要がある。寄せてくる動きを利用して裏へと抜けるような動きを見せれば、一気に相手も距離を詰めづらくなる。ハリルホジッチのチームで躍動する原口も、スピードを生かしてドリブルで一気に仕掛ける場面と、足元で受けずに長い距離を走って裏を狙うようなプレーを使い分け、相手に的を絞らせない。

ボールを持ってから勝負してくれるような距離感に慣れてしまうと、難しい場面での判断力や精度も鍛えられない。日本の選手が、「技術は優れていても怖くない」と言われてしまう原因の1つは、ここにあるようにも思える。

 

酒井宏樹が得意とする、守備における「距離感」

 


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 日本のDFは、相手と並走するような状況で距離を取ってしまうことが多い。実際、イラン戦での室谷もそうだった。長いボールを追っていくような状態で相手がボールを保持してから、一対一の勝負をスタートさせる。しかし。実際は相手がボールを持って、一息ついたところから一対一の勝負をする必要はない。早い段階から身体を寄せて、自由を奪うようなプレーを狙っていく必要があるのだ。

ネイマールに相対したブラジル戦でDFが全く距離を詰めることが出来なかったことについて、アギーレは厳しく日本代表を叱責したという。ESPNに語ったインタビューでアギーレは、「誰も、ネイマールに近い距離で守備が出来る選手がいなかった。彼に『守備が寄せてくる』という感覚を持たせなければならなかった」とコメントしている。

海外のDFは、非常に対人プレーにおいて狡猾だ。レスターの快挙を支えた鉄壁の一角となったCBロベルト・フートについて、ワトフォードで活躍するFWトロイ・ディーニーは「激しいタックルによって、試合の序盤に存在感を刷り込んでくるタイプのCB。やり合った中で、最も厄介なCB」と賞賛する。

相手に自分を意識させるような激しい接触プレーを意識されることで、相手FWが感じるプレッシャーを強めることが出来る。距離感を潰されるイメージを持つと、当然FWも自分のプレーを変えなければならない。そうなってくれば「寄せてくる」という意識によって、相手のプレーを制限することが出来るのだ。

日本の選手で最もこういったプレーを得意とするのは、マルセイユで活躍している酒井宏樹だろう。身長が低い選手が多いサイドバックというポジションで、彼の様に堂々たる体躯を持つ選手は希少だ。高い位置へと出つつ、相手にしっかりと身体をぶつけることが出来る。

後ろを向いた選手に迷いなくコンタクトを仕掛け、タッチが乱れたところを奪い取ったこのプレーは、彼の強みを凝縮したようなプレーだ。後ろを向いたからファールになってしまうことを恐れ、バックパスをするだろうと決めつけてプレッシャーをやめてしまうのではなく、しっかりと相手の自由を奪い取った。

 

「距離感を潰す」チームを作るための工夫

 

 ボールを持つ前の段階でコンタクトを受けることを想定した上でプレーを選択することは、常に厳しい状況で練習することによってのみ可能となる。シメオネ率いる「獣の群れ」アトレティコ・マドリードで練習をデザインする右腕オスカル・エゼキエル・オルテガは興味深いことにラグビーの指導経験を持つ。

彼はスペインのEl Pais紙に対するインタビューで、2013年にラグビーから学んだ戦術について語っている。それは、「試合を分割する技術」である。彼に言わせればラグビーはフットボールと比べて「ピッチをそれぞれの狭いエリアへと分割し、試合に近い状況を作り上げることによって練習の質を高める」ことが出来ていたという。その取り組みによって、彼は同時に距離感を潰すべき「プレッシャーを最も強める」必要があるエリアを可視化した。相手にタックルを仕掛け、距離感を潰して奪い取るアトレティコの守備は、「プレッシャーを強めるべきエリア」をチーム全員が把握しているからこそ成し遂げられたものだ。

また、彼が強調する面白い工夫が「ボールを守備の選手が奪いにいく」ように練習を設計することだ。彼の言葉を借りれば、「相手がボールと共にこちらに向かって来てくれるような練習では、ボールを奪いにいくという意識が育たない」という。そういう意味では、「ボール保持者がドリブルしてきて、それにDFが対応するシンプルな一対一の練習」では守備者は育成されないということになる。

 

ハリルホジッチが生み出しつつある「変化」

 

 確かに当初、ハリルホジッチの守備への意識はチームにとって良い影響だけを与えたものではなかった。奪う意識が強くなりすぎて一発で外されてしまったり、背後を狙われてしまったり。しかし、徐々に彼の努力が根付き始めているのも事実だろう。

アルジェリア代表で緻密なゾーンディフェンスを作り上げた指揮官は、日本代表にも根気強く指導を続けている。基礎の習得は、これまで多くの指揮官が挑んできた「壁」だ。ハリルホジッチは強い意志と共に、日本サッカーの守備を変えようとしている。

原口元気、小林悠の2枚を両翼に置いたオーストラリア戦の布陣は、今までの日本代表とは異なる「サイドにおいて、距離感を潰すことが出来る」という構成だった。両翼はサポートに下がってくる香川、2ボランチの山口、長谷部と協力しながら封殺。今まで「中央」を奪いどころにしていた日本代表と比べ、広範囲でボールを奪える構成となった。

オーストラリアにとって「安全圏」だったはずのサイドの低いゾーンは「危険なエリア」へと姿を変え、アジア王者は混乱へと叩きこまれた。酒井宏樹が不在にも関わらず、サイドでのボール奪取で勝負出来たのはポジティブな要素といえる。

 アジア予選で苦しんでいるハリルホジッチには厳しい目が向けられ、元々フィジカルに強みを持たない日本代表において「デュエル」を優先するべきではないという意見も見られる。しかし、トップレベルを目指していく上で「距離感を潰す」技術は避けられない

。平均身長が低いチリ代表が智将ビエルサの指導によって「ボールを狩る」チームへと生まれ変わったように、身体能力の差を埋めることも夢物語ではない。177cmの原口や小林がオーストラリアの選手に怯まずに競り合う姿を見ていて、「日本人のフィジカルでは、守備的なサッカーは難しい」と言い続けることは正しいのだろうか?

今回のW杯だけでなく、次の世代のためにも、日本サッカーは「距離感を潰す守備」についてさらに真剣に考えていくべきなのではないだろうか。

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About yuukikouhei

yuukikouhei
結城康平: DEAR Magazine 編集部で「KNOW」カテゴリ中心に編集、企画担当。やりたい事だけは沢山あるので、Dear Magazineと共に色々なことに挑戦していきたい。ジャンル問わずなんでも書く系。サッカー批評、Qolyなどに寄稿経験有り。今一番欲しいものは、新しいノートパソコンと可愛い小動物を飼える環境。好きなアーティストはエジンバラ出身のBlue Rose Code。

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