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『さよなら私のクラマー』第1巻より
『さよなら私のクラマー』第1巻より

新川直司が描く女子サッカーの現実。話題の漫画『さよなら私のクラマー』が相当おもしろい

こんにちは、tkqです。

いよいよJリーグのシーズンが終わりかけ、様々な夢が爆裂四散していく季節となりましたが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。私は目的を失ったチームでも応援できる強い男です。

さて、今日は漫画の紹介をしたいと思います。

紹介するのは、今年の夏前から月刊マガジンで連載中の『さよなら私のクラマー』。大ヒット作、『四月は君の嘘』の新川直司先生が描くサッカー漫画です。

実は、新川先生は『四月は君の嘘』以前に、『さよならフットボール』というサッカー漫画を描いており、本作は実質的な続編になります。

サッカーファンの間では早くも話題になっており、すでに名作の予感が漂っています。

 
『さよなら私のクラマー』第1巻

 

サッカー漫画の流れ

 

 サッカー漫画の歴史は古いのですが、ヒット作となると1980年代の『キャプテン翼』になるでしょう。日本のサッカー少年たちに大きな影響を与え、海外有名選手にも多数のファンがいるほどです。

現在30代以上の男性の97%は、翼くんと岬くんのツインシュートを真似してみたり、石崎君の顔面ブロックを真似して鼻血を出した経験があるそうです(当社調べ)。私の幼馴染のKは、高跳びのマットを使ってのオーバーヘッドの練習中に、目測を誤って頭からマットの外の地面に落ちました。彼は今も元気ですが、時折意味不明のメールを送ってきます。

『キャプテン翼』以降、多くのサッカー漫画が発表されることになります。現在のサッカー漫画を見てみると、非常に現実的な話が増えてきたな、という印象です。

Jリーグの開幕、日本代表の活躍などを日々目にし、さらにそれに関する記事を読むうちに、自然と読者のサッカーに関する知識が増えていき、現実離れした描写が通用しなくなってきたのでしょう。

残念ながら、現実では空中でオーバーヘッド同士で相討ちにならないし、巨漢DFが双子を空中に発射しないし、五輪代表監督が「今日負けたら大好きな酒を一生飲みません」と誓ったりもしないのです。あと、テニスシングルスの試合なのに分身してダブルスになったりもしません。

『キャプテン翼 GOLDEN-23』第9巻156ページより
『キャプテン翼 GOLDEN-23』第9巻156ページより
 そういったわけで、現代のサッカー漫画はフォーメーションから技術まで本当に現実に即した内容が多いです。また、プレーだけでなく、サッカーを取り巻くシビアな現実にどう対処していくかという流れも出てきています。

今回紹介する『さよなら私のクラマー』も、そういった昨今の「サッカー漫画リアル路線」の流れの中に位置しています。そして、彼女たちが直面する「現実」は非常に厳しい。

 

正面から描かれた、女子サッカーを取り巻く環境

 

チームメイトに恵まれなかった快速ウインガー周防すみれが、中学時代にライバルだった曽志崎緑とともに弱小高校に入学する。その弱小サッカー部には、『さよならフットボール』の主人公だった恩田希も入部してきて、コーチとして女子サッカー界のレジェンドである能見奈緒子がやってくる……『さよなら私のクラマー』の物語はそうやって始まっていきます。


『さよなら私のクラマー』第1巻 18ページより

どこかで聞いたような話、オーソドックスでありきたりな展開。少年スポーツ漫画だったら、主人公はパシリやってたから無茶苦茶足速いとか、実は勇者の息子とかの設定があるでしょう。ただ、『さよなら私のクラマー』はその設定ゆえにありきたりな漫画とはなりません。それは女子サッカーだからです

女子サッカーという特殊な環境で悩み、居場所を見つけていく女子選手たちが、活き活きと描かれています。


『さよなら私のクラマー』第1巻93ページ

しかし一方で、女子サッカーを取り巻く厳しい現実にも焦点が当てられています。

強豪校との練習試合中、弱小サッカー部監督の深津が能見コーチにこう問いかけます。「女子サッカーに未来はあるのか?」と。「純粋なプロクラブはいくつある?」「いくら稼げる?」と。能見コーチは答えられません。


『さよなら私のクラマー』第1巻166-167ページより

確かに、実際の女子サッカーを取り巻く現状は厳しいと言わざるを得ません。観客動員の伸び悩み、安い給料、整わない練習環境……完全なプロ契約を結んでいる選手も一部で、代表選手でも他に仕事を持っている場合もあります。W杯で優勝し、オリンピックで銀メダルを取っても、一過性の話題は獲得するものの、劇的に彼女たちの環境が変わったと言い切ることはできません。


『さよなら私のクラマー』第1巻5ページより

女子サッカーのそういったタフな環境と未来の曖昧さを正面から描いた作品は、おそらく漫画史上初めてです。思えば、新川直司先生の作品の登場人物は常に厳しい現実と闘っています。

『さよならフットボール』では女子の肉体の限界という現実と闘い、大ヒットした『四月は君の嘘』も失われた音楽を取り戻すために闘います。

今回、新川直司先生が突きつけたのは「女子サッカーに未来はあるのか?」という悩ましい問いです。残念ながら、現実にはすべてを吹っ飛ばす必殺シュートも11人抜きも起こりえません。『3月のライオン』が将棋人たちが人生を戦う姿を描いているように、『さよなら私のクラマー』もサッカー漫画であると同時にサッカーをプレーするすべての女子たちの人生の物語なのです。

 

漫画としてのレベルが高い『さよなら私のクラマー』

 


『さよなら私のクラマー』第1巻150-151ページより

もちろん、そういう大きなテーマだけでなく、『さよなら私のクラマー』は「楽しい」サッカー漫画です。抜群の画力で試合の描写もとてもスピード感がありますし、


『さよなら私のクラマー』第1巻10-11ページより

『さよなら私のクラマー』第1巻193ページ

キャラも立ってるし、


『さよなら私のクラマー』第1巻

女子同士のやり取りもかわいいです。


『さよなら私のクラマー』第1巻102ページより

おそらく、『さよなら私のクラマー』という謎めいたタイトルの意味が明らかになる頃には、物語も佳境へと入っていくのでしょう。

日本サッカーで「クラマー」と言えば、東京オリンピックで日本代表を率いた故デットマール・クラマー監督が思い起こされますが、果たしてそれと関係があるのかどうか。まさか現役ドイツ代表の巨漢MFクリストフ・クラマーや鞍馬天狗はビタイチ関係ないでしょうが、急にクリストフ・クラマーが来日して鞍馬天狗として女子サッカー選手を山にさらっては剣術を教えていく怪奇バトル漫画になったとしても、しばらくは見守ろうと思います。

あれこれ書きましたが、『さよなら私のクラマー』はとても面白く、サッカーを好きな人もそうでない人にも楽しめる漫画になっています

まだ1巻だけしか発売されてないので、追いつくのも簡単。実質的な前作となる『さよならフットボール』を読んでおくとより楽しさが倍増するかと思うので、こちらも全2巻でオススメ!

「思ってたんとちがーーーーーーう!!!」となってしまった今シーズンの苦しみを癒やすために、Jリーグのオフシーズンに読もう『さよなら私のクラマー』と『さよならフットボール』!

最後に、私は高橋陽一先生を非常に敬愛しております。

 

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