Home / KNOW / JリーグCS決勝、鹿島アントラーズが浦和レッズより優れていたもの

JリーグCS決勝、鹿島アントラーズが浦和レッズより優れていたもの

Jリーグ2016シーズンの頂点を決める、明治安田生命2016Jリーグチャンピオンシップの決勝は、燃えるような赤をチームカラーにする名門チーム同士の対決となった。「熱狂的なサポーターに支えられている」ことで海外でも有名な浦和レッズと、Jリーグが創設されてから7つのタイトルを手中に収めてきた鹿島アントラーズの一戦は、鹿島の2009年以来7年ぶりのJ1制覇で幕を閉じた。

1stレグで敗戦したことで、鹿島は2点以上得点しての勝利が優勝するために必要な条件となる。日本代表でも活躍するGK西川周作を中心とした堅守で2ndステージを制した浦和を相手に、鹿島は追い込まれていた。

そんな逆境の中で栄冠を手にした鹿島はこの試合、どういった面で浦和よりも優れていたのだろうか。

 

鹿島が狙った、数的同数

 

 普通であれば、浦和を相手に多くの人数を送り込むことは簡単ではない。武藤、高木、興梠の機動力に優れた3人が絡むカウンターは破壊力抜群で、柏木から攻撃参加した両翼にも正確なボールが供給される。2枚のシャドーがエリア内に入り込むような形で守備を引き付ける形は、先制ゴールの場面でも見られた。9番の武藤が見事なフリーランで相手DFを引き付け、絶妙のタイミングでポジションを入れ替えることで興梠のスペースを生み出した。

浦和レッズ vs 鹿島アントラーズ ハイライト/URAWA REDS OFFICIAL TVより

しかし、得点が必要だった鹿島は浦和の3トップにスペースを狙われることを度外視してでも攻め込む必要があった。

基本形としては、ある程度下がった鹿島の中盤が2枚のCBと共にボールを回している間にアタッカーが4枚高い位置に進出し、浦和の3CBと両WB(5枚)に対して出来る限り「数的同数」に近い形を作り出すことだった。

これは、前回のW杯でメキシコ代表が好んで使った戦術に近い。ボールを最少人数で保有し、高い位置に多くの人間を送り込む。両サイドバックも高い位置に押し上げれば、5バックに対して5人のアタッカーを当てることが出来る。

両サイドが下がることで数的有利を作りやすい5バックへと変容する浦和に対して、鹿島は徹底して数的有利を作り出させないことを狙った。


http://tracking.jleague.jp/matches/2016120301/stats/より

                            

 バランスを崩す恐れがある博打を仕掛けつつ、鹿島は冷静に動く。前半の途中から左サイドの柴崎 岳(鹿島・10)をトップ下に近いポジションに移したのだ。彼が中央に進出する場面が増え始めたことで、浦和の3バックは中央に釘付けにされてしまう場面が増えるようになった。本来は後方で数的有利を作りやすいという利点がある3バックも、相手が前線にこれだけ人数を送り込んでいる状態だと簡単ではない。そうなってくると、浦和の両ウイングバックが孤立する。

3バックは、守備面で脆弱なWBを起用した際にスライドしてサポートすることも出来るという利点もある。浦和の3バックはサイドでの一対一にも対応出来るスピードを備えており、本来であればWBのサポートをこなしながら彼らの攻撃力を最大化する筈だった。しかし、中央に人数を送り込む鹿島の攻めによって彼らの動きは封じられる。3人のアタッカーに忙殺されたCBのサポートを受けられないWBを、鹿島は的確に狙い撃つ。

狙われたのは左サイドの宇賀神 友弥(浦和・3)だった。背後に入り込んだ遠藤 康(鹿島・25)との競り合いで体勢を崩され、最初の失点の起点になってしまった場面は鹿島にとって狙い通りのものだった。ウイングバックの背後に進入し、死角から競り合いを仕掛ける。孤立したウイングバックに攻め駒を当てる策は、見事に奏功する。

浦和レッズ vs 鹿島アントラーズ 鹿島1点目シーン/URAWA REDS OFFICIAL TVより

2失点目(後半34分)に繋がった場面も、目の前に走りこんだ選手に気を取られた槙野 智章(浦和・5)の背後を宇賀神がスライドしきれず、槙野が背後の状況を把握出来ていなかったことに起因する。西川や宇賀神も、槙野に鈴木優磨(鹿島・34)が走り込んでいることを伝えられるチャンスはあった。

浦和レッズ vs 鹿島アントラーズ 鹿島2点目シーン/URAWA REDS OFFICIAL TVより

宇賀神の位置に入ったのが本職CBの選手ならこういった失点が起きる可能性は減らすことが出来たかもしれないが、ウイングバックに無意識的にCB的な振る舞いを期待してしまった槙野の判断も正しくはなかった。

 

鈴木の投入に込められた意図

 

 鈴木優磨(鹿島・34)の投入(後半13分)は鹿島アントラーズにとって試合を大きく分ける一手となった。

本職はFWながら、サイドでもプレー出来る若手アタッカーを投入したことは非常に解りやすいメッセージとなる。彼の果たした役割は、浦和の左ウイングバック宇賀神(3)の背後を狙うような動きを見せることで牽制し、更に左CBとしてプレーしていた槙野(浦和・5)が守るスペースでボールを受けること。


http://tracking.jleague.jp/matches/2016120301/stats/より

 

柴崎(鹿島・10)が中央へと顔を出す場面が増えたことによって、浦和レッズの最終ラインは枚数を揃えるために押し込まれ、中盤の選手をDFラインに組み込むようにして守る場面も増えていた。そこで、CBWB2枚を「同時に請け負うことが出来る」鈴木の存在は効果的なものだった。サイドプレイヤーというよりも「槙野を引き付けるシャドーストライカーのように振る舞う」彼の動きによって、浦和の3バックは危険な場面を作られやすくなっていく。

浦和レッズ vs 鹿島アントラーズ 上述のシーン/URAWA REDS OFFICIAL TVより

中央に入り込んだ鈴木が槙野を封じることによって、FW 土居 聖真(鹿島・8)がフリーになる時間が増え始める。動画でのチャンスシーンは、鈴木を起点にすることで土居が槙野の背後に侵入。3バックの1枚を引っ張り出すことによって、間にスペースを生み出した。浦和の3バックが比較的スライドを好まず、どちらかというと自分のポジションを守ろうとすることも状況を悪化させる。鈴木が槙野を誘い出すと、その周辺ではスペースが生まれるからだ。「11に固執せずに、近い距離での崩しを狙う」鹿島は、個々で相手を捕まえようとする浦和にとって天敵だった。

得点に繋がるPKを奪ったシーンも、鈴木の「ゾーンを横切る」能力を象徴するものだ。宇賀神の守るエリアから、一気に槙野の背後に侵入。何度となく浦和の守備陣を迷わせた若手ストライカーは、複数人を相手にした状態で組織を崩すことが出来る。

 

浦和に求められた「状況に応じた攻め」

 

 柴崎が「中央付近にも顔を出しながら攻撃を重視した位置取りを取る」ことに伴い、彼は左サイドでの守備に参加する時間を減らす。そうなれば当然、浦和にとっての右サイドが攻めの起点となる。武藤 雄樹(浦和・9)は何度となく積極的なドリブルを見せ、右ウイングバックの関根 貴大(浦和・24)も手薄になったライン際をオーバーラップした。

ヒートマップを見ても明らかだが、鹿島と浦和は両者共に「右サイドから攻める」意識が強かった。これは相手の薄いサイドを狙うという目線では正しい一方で、得点を許したくない浦和にとっては1つのミスでもあった。鹿島は柴崎を置く左サイドから攻められることを念頭に置いた上で仕掛けており、攻めの起点は右サイドだったからだ。


Football LABより

 

もし浦和が左サイドでシャドーとウイングバックを絡めて攻め込めば、鹿島の右サイドはある程度までは下がらざるを得ない。特に後半、厄介な動きをしていた鈴木を自陣から遠ざけるには、左サイドからの攻めが必要だった。得点を許さなければ良い、という状況でお互いに異なるサイドから攻め合ったのは、結果的に鹿島の攻撃機会を増やすことに繋がってしまった。手薄なサイドから攻めることはチャンスを作り出す一方で、相手のチャンスを減らすことには繋がらない。

攻撃は時に、相手の攻撃を抑制する目的でも使うことが出来る。

当然、ロングボールを多用するという手もあった。最終的に得点が欲しい状況でのパワープレーを狙った浦和だったが、相手の勢いを削ぐために後半の早い段階で身体を張れるFWを投入するという手もあったはずだ。指揮官ミハイロ・ペトロビッチは「優位な状況を意識したくない」という気持ちに縛られたことで、柔軟性を失っていた。守りにいくなら更にCBを追加して開き直る手もあったが、結果的にその選択をすることも出来ず、迷いによって浦和レッズは眼前で勝利を失ってしまった。

 

 圧倒的な勝負強さで知られる鹿島が浦和よりも優れていたのは、「2点を取らなければならない状況で開き直りつつ、絶妙にバランスを保つ」という柔軟さだった。“Tactical flexibility(戦術的柔軟性)”の重要性が強調される中、短期決戦で求められるのは対応力だ。柴崎を中央に移し、得点の起点になった遠藤に代えて20歳の鈴木を投入するなど、石井監督の大胆な仕掛けは浦和に対して「変化」を迫った。

しかし、その変化に浦和は対応出来ず、受け身になったことで追い込まれてしまった。勝利が目前に迫っていたプレッシャーの影響もあったのか、自分たちの変化で鹿島に「対応させる」ことも出来なかった浦和は、あと一歩のところで鹿島に屈した。

リーグ戦を制した浦和はチームの総合力では優れていたが、駆け引きと柔軟性の部分では鹿島が上だったのかもしれない。

この記事が気に入ったら
いいね ! しよう

About yuukikouhei

yuukikouhei
結城康平: DEAR Magazine 編集部で「KNOW」カテゴリ中心に編集、企画担当。やりたい事だけは沢山あるので、Dear Magazineと共に色々なことに挑戦していきたい。ジャンル問わずなんでも書く系。サッカー批評、Qolyなどに寄稿経験有り。今一番欲しいものは、新しいノートパソコンと可愛い小動物を飼える環境。好きなアーティストはエジンバラ出身のBlue Rose Code。

Check Also

アントラーズ狂が教える、鹿島アントラーズ選手紹介【2017年版】

Jリーグもついに2017シーズ …