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Photo credit: kanegen via Visual Hunt / CC BY
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山口蛍と矢島慎也。J1昇格プレーオフで垣間見せた、日本代表の未来

サッカーの母国イングランドでは、プレーオフの決勝こそが「世界で最も高価な試合」として扱われている。莫大に膨れ上がったプレミアリーグの放映権料を得られる権利を奪い合う試合は、チャンピオンズリーグの決勝よりも「高価な」試合なのだ。

パフォーム・グループによって巨額の放映権料が流れ込むことが決まったJリーグにおいても、プレーオフの注目度は増していくはずだ。ファジアーノ岡山がセレッソ大阪に挑んだJ1昇格プレーオフは、日本代表の未来を背負う選手達の意地がぶつかり合う場所になった。

中でも、ファジアーノ岡山の矢島慎也、セレッソ大阪の山口蛍の存在感は別格だった。

柿谷や山口といった日本代表クラスの選手を擁し、保有する選手達の市場価値が合計£13.81m(約20億円:*1)のセレッソ大阪と、一方で£4.95m(約7億円)という規模にも関わらず大舞台へと辿り着いたファジアーノ岡山の一戦は、日本代表の「攻守の要」になり得る才能のぶつかり合いだった。

*1:全世界のサッカーに関するデータを網羅していることで知られるドイツのWEBサイト「Transfermarkt」より

 

3バック+1。矢島が見せた「王の片鱗」

 

何人かのナイジェリアU-23代表選手に印象に残った日本代表の選手を尋ねたとき、「矢島慎也」の名を挙げる選手が多かった。ASローマで活躍するナイジェリア代表サディク・ウマルも、矢島について「抜群のシュート力を兼ね備えた、素晴らしいMF」と答えている。

一方で、筆者にとってU-23代表における矢島慎也という選手の評価はそこまで突出したものではなかった。状況に応じて2ボランチに寄ってボールを受けたりすることでチームのバランスを保つ賢い選手で、得点機に顔を出す嗅覚も持っている。しかし、高い位置に進出して攻撃的なプレーを続ける中島や南野のために「犠牲」となっていた彼は「縁の下の力持ち」でしかなかった。

しかし、ファジアーノ岡山で彼が示したのは、ピッチに君臨する「王の片鱗」だった。守備が注目されがちだった岡山だが、実はボールを持った時にこそ興味深いチームだったのだ。


ファジアーノ岡山 ピンクセレッソ大阪

 

頭脳派CB、岩政大樹が統率する岡山の守備陣は、5バックとして相手の攻撃を跳ね返す、堅牢な守備ブロックを作る。また攻撃でボールを持った時には、容易く数的有利を作り出すものでもあった。

中央でボールを待つ岡山の2シャドーと1トップによって、セレッソのボランチは高い位置から飛び出すことが難しい。

岡山のWBがセレッソの両サイドハーフを引っ張れば、セレッソの選手で岡山のボール保持を妨害することが出来るのは残った2トップだけになる。

岡山DFラインの前に顔を出す矢島がボールを持つことに応じて、両脇のCB(片山、篠原)が両脇をサポート。これによって、矢島が孤立せずにボールを動かすことが出来る。これは、ユベントスでアントニオ・コンテが採用した「ピルロ・システム」に近い。両CBがピルロの両脇に進出することで、彼のために常に2つのパスコースを作り出す。

さらに、左サイドに近い位置でボールを受けるシャドーの伊藤大介(岡山)の存在によって、左サイドは数的同数を作り出しやすい。ヒートマップにおいて岡山の攻撃が左サイドを中心としていたことも、こういった仕組みを考えれば当然のことだろう。


Football LABより

 

試合をコントロールし、「王の片鱗」を垣間見せたのは矢島だ。

パス成功数は、56本。主導権を握っていたセレッソの誰よりも多いパスを通しながら、彼はパス回しの中心として存在感を放っていた。特筆すべきは、その「自我」だろう。元来アタッカーとしてプレーしていたこともあってか、彼のパスには強烈なメッセージ性がある。

正確なボールを蹴ることが出来る矢島は、ボールをダイレクトで返して欲しいときは近い足、外に展開して欲しいときは遠い足にボールを正確に動かすことが出来る。岡山の選手達はパスを受ける前に、矢島の意図を感じ取っていた。だからこそ、彼らのパスワークは崩しへと繋がっていく。自分からの長いボールを警戒させてあえて一度戻し、そこから岩政のロングボールを計算したような組み立ても見られたように、彼は間接的にも岡山の攻撃をコントロールしていた。

両脇のCB50本を超えるボールを通していたことから、矢島の左右を的確にCBがサポートしていたことが解る。

高い位置に進出した際は、身体の軸がブレない状態で正確性を保つプレーによってチャンスを作り出す。計り知れないポテンシャルの一端を垣間見せた彼は、間違いなく未来の日本を背負うべき選手の1人だ。

高い位置でシュート力と正確なキックを武器にするアタッカーになる道と、試合を統率する王の如き司令塔になる道。どちらを選ぶとしても、彼は日本を背負う選手となれるだけの可能性を秘めている。

<次ページ>助っ人の経験と、山口蛍の揺るがぬ強さ。

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About yuukikouhei

yuukikouhei
結城康平: DEAR Magazine 編集部で「KNOW」カテゴリ中心に編集、企画担当。やりたい事だけは沢山あるので、Dear Magazineと共に色々なことに挑戦していきたい。ジャンル問わずなんでも書く系。サッカー批評、Qolyなどに寄稿経験有り。今一番欲しいものは、新しいノートパソコンと可愛い小動物を飼える環境。好きなアーティストはエジンバラ出身のBlue Rose Code。

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