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Photo by Takegora
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レアル・マドリードを追い詰めた、「鹿島の強さ」とは何だったのか

欧州最強レベルの攻撃力を誇る「白い巨人」レアル・マドリードを追い詰めた鹿島アントラーズは、世界中を驚かせた。大会を勝ち進んでいく中で急速に成長していったチームは、将来有望な若手と経験豊富なベテランを絶妙に融合させたチームだった。

鹿島アントラーズというチームが各大陸の王者との闘いの中で見せた「勝負強さ」の正体とは何だったのだろうか。

 

勇敢に仕掛ける鹿島、丁寧に対応するレアル

 

 鹿島は、中盤を浅めにセット。中央で守備参加出来る柴崎岳を外に置き、献身的に動き回る前線と連携しながら、何とかレアルカゼミーロモドリッチクロースの中盤に自由を作らせないように奔走する。

準決勝のナシオナル戦と同様に、出来る限り後ろからの縦パスを蹴らせようというのが鹿島の狙いだった。

しかし、クロースモドリッチはサイドバックの脇にまで進出することで中央のプレッシャーを外しつつ、あえて密集地にボールを入れてダイレクトで繋ぎながら攻撃を構築。

鹿島の中盤は何度となくプレスを無効化され、鹿島のDFラインから下がってくるベンゼマに正確なボールを供給された。


:鹿島アントラーズ :レアル・マドリード


 勇敢な仕掛けが空回りしても、安定したDFラインでレアルの攻撃を跳ね返してきた鹿島は慌てない。

大会の中で多くの強靭なFWと競り合う経験を積むことによって、楔のパスを受けたアタッカーに接近戦を挑めるようになった守備陣中盤が戻ってくる時間を稼ぐことが出来る。

ストライカーに近い位置でプレーするクリスティアーノ・ロナウドが高い位置を取り、ポストプレーに優れたベンゼマが左右に広く動き回りながらボールを受ける。

その組み合わせにルーカス・バスケスが絡む布陣の弱みは、ライン間でボールを受けた際に後ろを向いていることが多く、そのまま危険なエリアへと運んでいくことが出来なかったことだ。

ベンゼマが受けたところで近い位置に寄ってサポートし、時には自らがラインの間でボールを引き出してそのまま仕掛けられるトップ下がいれば違ったかもしれないが、どちらかといえばロナウドバスケスベンゼマからのパスを待つことが多く、使いたいエリアでの勝負を仕掛けられなかった。

 レアルはギャレス・ベイルの不在も当然大きく、右サイドで突破するだけでなく切り込んでミドルを狙うことが出来る彼がいれば、ベンゼマへのプレッシャーは軽減されたに違いない。ベンゼマが孤立して受けるパターンは、鹿島にとっては「最も抑えるべきパターン」ではなかった。

指揮官ジダンが会見でコメントしたように、鹿島のプレーを彼らが分析していたことも事実に違いない。マメロディ戦の後半で一気に流れを変えた「高い位置から仕掛ける」鹿島のプレッシングを意識し、彼らはスローペースではありながら丁寧に試合に入ってきた。アクセル全開ではなかったが、ポイントを意識したゲーム運びによって彼らは鹿島を追い詰めていく。

先制点は、レアルが全体を押し込んだことによって生まれる。クロースから絶妙の横パスがモドリッチに入り、インターセプト出来ると勘違いした鹿島の守備陣は完全にバランスを崩されてしまった。相手に奪われる可能性があってもギリギリを狙い続けるクロースの精密機械のようなパスは、セットされた守備陣を甘い罠で誘い出す。


そこからモドリッチが右サイドに散らし、センタリングのこぼれ球がモドリッチの元へ。バランスが崩れた状態で振り回されたことで鹿島は適切なプレッシャーをかけられず、ミドルシュートを許す。何とか弾くも、そこにはベンゼマ。鹿島の堅守は、クロースのパス一本によって瓦解してしまう。

鹿島の反撃は、土居の「眼」から

 

 数少ない攻めの機会であっても、鹿島は攻め急がない。鹿島アントラーズが大会を通して徹底してきた試合運びを体現する男こそ、土居聖真(どい しょうま)だ。普通ならば攻め急ぎ、仕掛けてしまうような場面で冷静に足裏を使ってボールを転がし、シザースで相手に足を出させてファールを誘う。

エリア内でも、土居は抜群のポジショニングセンスによって危険なエリアに進入。冷静なヘディングでの折り返しは、本大会のベストプレーの1つだろう。駆け引きに長けた南米王者を何度となく嘲笑ったテクニシャンは、中央・サイドの両方で「賢さ」で勝負出来る選手だ。

相手の守備が緩まった前半終盤、狡猾に土居は狙っていた。自分の背後をオーバーラップするSBを意識したカルバハルから切り返しで離れ、カバーに来たカゼミーロから遠ざかるようにキックフェイント。



「速さ」に頼ることなく2人のDFを置き去りにした技術は、土居の強みを凝縮したものだろう。相手が瞬間的に譲り合ってしまう場面を作り出したのは、相手の動きを見極める彼の眼だ。コースを塞ごうとするカルバハルを嘲笑うように正確なマイナスのクロスボールを供給し、柴崎の得点に繋げた。

 

昌子と西、攻守を支えた「眼」

 

 昌子源。24歳のCBは大陸を代表するストライカー達とのフィジカルバトルを経て、大輪の花を咲かせようとしている。身体的強さやカバーリング能力に加えて、特筆すべきは「相手FWの狙いを読み取る」観察眼だ。

レアル・マドリードの選手達と相対する時、仕掛けるタッチに飛び出しては抜き去られる。昌子が徹底して狙ったのは、「仕掛けるタッチ以外のタッチ」だった。

クリスティアーノ・ロナウドが外に逃げる瞬間に絶妙なタックルを仕掛けたように、相手が一瞬力を緩める瞬間にボールを奪い取る技術こそ、彼が世界に誇るべき最大の武器だ。アフリカや南米のフィジカル自慢達との競り合いを経て、彼はDFとして1つ殻を破った。


一方で、右サイドバックの西はピッチ上で最も落ち着いた選手だった。

身体を起こして視野を広く保ち、ボールを奪いに来るレアルの選手達を観察する。まるで内田篤人のような飄々としたボール捌きからは、レアル・マドリードのプレッシャーにすら怯まない平常心が見えた。

アウトサイドの浮き球で2人の選手達を置き去りにした場面は、まるでレイトン・ベインズ。エバートンで「英国最高の頭脳派サイドバック」に上り詰めた男のように、経験と共に磨かれた技術によって鹿島を落ち着かせる要になった。

 

試合を動かす、2人の天才

 

 西昌子がチームを支え、レアル・マドリードの猛攻から決壊を防ぐ中で試合を動かしたのは、試合を動かすべき背番号を背負う男だった。10番を背負った柴崎がドリブルでレアルの守備陣を切り裂き、そのまま体勢を崩しながら的確に動くボールを捉える。

語り継がれるに違いない一撃を放った柴崎によって鹿島は「欧州王者相手にリードを奪う」ことに成功。しかし、ルカ・モドリッチが黙ってはいない。

レアル・マドリードの中盤で常に輝きを放つ小さな天才は、柴崎とは違った方法で試合を動かす。

モドリッチが、鋭い縦パスをベンゼマに送り込んだ時、明らかに試合の雰囲気が変わる。浮き球の難しいパスは、ベンゼマだからこそコントロール出来るものだった。しかし、そのパスにはモドリッチのメッセージが込められていた。


:鹿島アントラーズ :レアル・マドリード

「縦パスを簡単に落とさせて、中盤から走り込む」ということ。ロナウドベンゼマを封じることで手一杯になっていた鹿島のDF陣は長い距離を走り込む選手に対応出来ず、浅い位置にセットされた中盤も彼を追えない。

試合全体の流れを変えたモドリッチによって、レアルが躍動する。最終的に低い位置から走り込んだバスケスがPKを獲得するが、その布石は既に試合を動かす天才によって仕掛けられていた。


ジネディーヌ・ジダンの的確な采配

 


 ジネディーヌ・ジダンは指導者になって、華麗なプレイヤー時代の印象とは大きく変化した。実際、彼は最先端の戦術を駆使する指揮官ではない。しかし、そのカリスマでチームをまとめ、カゼミーロを起用するなど現実的な手段を地道に積み重ねることで結果を残してきた。

モドリッチを含めた中盤の動きによって鹿島が「引くことを強要された」状況を見て、前に自らボールを運べるコバチッチ、複数人を引き付けられるイスコを投入。

左サイドバックのマルセロを起点に、サイドに流れたベンゼマに縦パスを入れることで的確に鹿島の中央を下がらせる。

最初の失点と同じく中盤が高い位置まで進出することを許してしまうと、レアル・マドリードの破壊的な攻撃陣は簡単には止められない。徹底的に相手を引かせた上で、中盤を攻略。最終的には絶対的エース、ロナウドが2点を沈めて試合を終わらせた。




鹿島の「勝負強さ」の正体

 

 鹿島にとって、この大会は大きな自信になるだろう。鹿島の代名詞である「勝負強さ」という曖昧な言葉も、結局は相手を徹底的に観察し、冷静に周りを把握する力に他ならない。

彼らが試合の中で適応を繰り返すことが出来たのも、「自分たちの力を冷静に認めながら、相手を研究し続けたから」だ。鹿島は伝統的に、戦術は相手を知ることによって成り立つものだと理解している。若い選手であっても、鹿島の選手は客観的に試合を見ながらプレーしている。


しかし一方で、大会を通して個の力では圧倒されていたのも事実だ。適応する前に試合を決められても不思議ではない場面も多く、まだまだ狭いスペースでの激しいプレッシャーには慣れていない選手が多かった。レアル・マドリードの破壊力を的確に軽減したにも関わらず、4失点を喫したという事実も「近いようで遠い」世界との距離を示している。

小笠原と曽ヶ端の背中を見ながら世界を味わって大きく成長した若者達は「鹿島アントラーズ」と「日本代表」を背負っていくことになるのだろうか。

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About yuukikouhei

yuukikouhei
結城康平: DEAR Magazine 編集部で「KNOW」カテゴリ中心に編集、企画担当。やりたい事だけは沢山あるので、Dear Magazineと共に色々なことに挑戦していきたい。ジャンル問わずなんでも書く系。サッカー批評、Qolyなどに寄稿経験有り。今一番欲しいものは、新しいノートパソコンと可愛い小動物を飼える環境。好きなアーティストはエジンバラ出身のBlue Rose Code。

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