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戦場は中盤にあり。鹿島vs川崎の天皇杯決勝に見る、「中央の重要性」

 

元日に鹿島が掲げた天皇杯は、英国屈指の銀細工メーカーであるトーマス・ライトによって作られ、2011年にイングランドのサッカー協会から寄贈されたものだ。

アマチュアを含めた日本中のチームが掲げることを夢見るトロフィーは、世界最古のカップ戦であるFAカップのトロフィーと同じ製造元によって作られた「兄弟」としても知られている。

チェスの世界で、中央のスペースが「盤上のコントロールを得る」ために重要な欠かせないスペースとされている事実と同様に、サッカーにおいても「中央」の重要性については常に議論されるテーマとなる。

今回は、鹿島アントラーズと川崎フロンターレが死力を尽くして争った天皇杯決勝から、「中央」の重要性を考えてみよう。

 

相手の中央を潰す鹿島の中盤

 

鹿島アントラーズは、クラブワールドカップ(CWC)でも相手のボランチへのパスコースを的確に潰すことによって、各国王者を見事に追い込んだ。レアル・マドリード戦では欧州王者の丁寧な対処によってプレッシャーを回避されてまったが、彼らの武器は十分に世界に通用するものだった。

小笠原満男永木亮太の両MFは自分の持ち場を離れてでも、徹底的に相手のボランチにプレッシャーをかけていく。川崎の心臓として君臨する日本代表MF中村憲剛と、狭いスペースを細かいパスを攻略する風間フットボールの象徴であるMF大島僚太を経由することで、川崎の攻撃は指針を持つ。

だからこそ、鹿島2トップが下がりながらMFを高い位置に進出させてプレッシャーを強化。


:川崎フロンターレ :鹿島アントラーズ

川崎DFラインはボールを持つと、まず中村大島を探そうとする。鹿島、川崎のボランチ2枚に対して厳しく圧力を加えることで彼らに前を向かせないと共に、川崎全体が高い位置に進出するような攻撃を制限する。中村大島がボールを捌きながらリズムを作り、そのまま彼らFWとのコンビネーションで鹿島の守備エリア周辺に進出するパターンは鹿島にとって絶対避けたいものだった。

CWCで鹿島が学んだことは、「受け過ぎない」ことの重要性だ。Jリーグ屈指の守備力を持っている鹿島でも、DFラインを下げて押し込まれる時間が伸びてしまうと、当然危険な場面は増えてくる。

彼らはCWC大会の途中から、最大の武器である強力な守備陣を「押し込まれた状態で、相手の攻撃を受ける」ことではなく、「押し込まれる時間を減らすためにリスクを許容する」ために使うことが出来るようになった。

そのために重要となるのが、相手のボランチへのプレッシャーだ。小笠原中村に倒された際に猛然と詰め寄ったことも、「鹿島は、中央で激しく勝負しようとしている」というイメージを必要以上に意識させることへと繋がった。

チェスにおいても、「相手の駒が動きにくい状態を作る」為に中央の主導権を奪うことは重要視されている。例として挙げられることが多いのは、相手のナイトを封じ込めたガレリ・カスパロフの棋譜だ。

 

大久保の判断が、機能せずに終わった理由

 

中村大島というキーマンが前を向けない状況となってしまうと、川崎はスムーズにボールを前進させるのが難しい。CBから持ち上がるのは2トップ鹿島を相手にしていることを考慮すれば、リスクが大きい。また、長いボールを前線に蹴り込もうにも「的になる長身ストライカー」がいる訳ではない。そこで、CF大久保嘉人が下がることで中盤をサポートしようとする。


:川崎フロンターレ :鹿島アントラーズ

中盤が激しいプレッシャーを受けている状態で、大久保が下がること自体は間違いではない。ただ、相手のDFラインから離れて大久保がボールを受けた状態で2シャドーを裏へ走らせ、左右に中村大島の攻め上がりを待つような理想形を多く作れなかったのは問題だった。

恐らく、風間八宏監督大久保が下がる判断自体は許容していたのだろう。しかし、チーム全体が彼の判断に対応出来ていなかったことで、彼は単なる独奏者に終わってしまった。大久保は下がり過ぎて効果的に受けられないような場面も多く、DFラインは中村大島を探す意識が強過ぎて、直接ボールを送り込めなかった。

大久保だけでなく前線から流動的に下がる選手を変えたり、下がってくる選手に呼応して中盤が高い位置まで進出したりすることが出来ていれば、大久保の動きをチームとして活用することが出来たはずだ。

 

中央の主導権を奪い返す川崎。試合を一変させた、風間八宏の妙手

 

「百戦錬磨」という言葉を想起させる鹿島の中盤中村大島に対して厳しいプレッシャーをかけることで川崎の攻撃ルートを限定。セットプレーでの先制点も含め、鹿島はゲームプランを適切に実行していた。鹿島が主導権を握る中、風間監督は堤防を決壊させる蟻の巣を探し続けた。

そして、彼はついにそれを発見する。19歳のMF三好康児の投入である。3-4-3に近い形からフラットの4-4-2に陣形を変更していたことで、交代した三好が左サイドアタッカーの位置に入ると鹿島の選手は考えたはずだ。鹿島の中盤、特にプレス位置を調整していた小笠原は守備方法を変えない事を選択するが、それはこの試合で最大の判断ミスだった。

左サイドアタッカーとして投入された三好はライン際で仕掛けるのではなく、自由に中央のスペースに進出。下がってくる大久保の横に彼が現れることで、鹿島の中央が対応出来ない場面が増えていく。右サイドのエウシーニョが時にFWの位置まで攻め上がることで、変則的なボックスの4-4-2が出来上がる。


:川崎フロンターレ :鹿島アントラーズ

鹿島は中に入ってくる三好を右SBの西大伍に任せようとしたが、ボランチのゾーンをサイドバックがカバーすることは非常にアンバランスで、判断ミスも起きがちになる。中に入っていくアタッカーをサイドバックが追いかけるシステムは破綻しやすい。

川崎DFラインにとっても、ボランチへのコースを塞がれている状況で三好の存在は大きかった。鹿島がボランチへのコースを切った時に、三好に送り込むことで中盤の網を突破出来るからだ。

こうなると、川崎の刻むリズムは止まらない。彼等の最大の強みは、自分たちで緩急をコントロールすることにある。

特徴的なのは、川崎の選手達がボールを止めることを厭わないことだ。彼らはボールを動かし続けるのではなく、相手のプレッシャーが無い時は一端ボールを止める。スピードが0になった状態から近い位置に出すと、受けた選手は大抵ダイレクトでボールを動かす。一気にスピードアップしながら複数人が絡むことで、引いた相手でも攻略してしまう。三好ハーフスペースと呼ばれるSBDHの間に生まれるエリアでボールを受け始めると、永木小笠原も放っておく訳にはいかない。

三好大久保の占有するスペースに必死で戻れば、手薄になった中村大島三好の両脇に進入。結果的に最も鹿島が恐れていた2人が、高い位置で攻撃のタクトを振るい始める。小林悠が狙い通りの同点弾を沈めた川崎は、見事に鹿島の守備を攻略する。

 

川崎の脆さと、鹿島の異質さ

 

しかし、川崎は完全に主導権を握りながら、追加点を奪うことが出来ない。CWCでレアル・マドリードに容赦なく攻め込まれた後半を経て、鹿島の選手達には「状況が悪くなった時には、4-4のブロックを作って耐える」という意識が浸透していた。中盤のラインは下がり、攻めを寸前で食い止める。

延長に入ると、鹿島は前線にファブリシオを投入。中盤もこなせる彼が中央の守備に積極的に参加することで、疲労に蝕まれる川崎MFは何度となくボールを失った。決勝ゴールという出来過ぎなプレゼントまで受け取ったものの、延長戦での貢献を見ていれば妥当なものだろう。

あっさりと自分たちの判断ミスを認め、相手の流れを食い止めることに集中する。狭い位置での崩しに固執する川崎と比べた時に、鹿島は「捨てる強さ」を持っていた。鹿島はそれをチームとして試合の中で共有することで、日本では異質な勝負強さを有するチームたり得ている。

一方、金崎夢生の不在によって攻撃の幅が致命的に足りていないことが顕在化したのは大きな課題だろう。

守り切れても、攻めのパターンが無ければ勝ち切れない。リーグ制覇を狙うためには、攻撃のアクセントになれる駒を補充しなければならないはずだ。前線がポジションチェンジしながら流れ込むショートカウンターは驚異的だが、速攻が塞がれた際に中央のスペースを効果的に使えている訳ではない。守りで中央を巧く占有出来ているように、攻めでも効果的に使うことが求められてくるだろう。遅攻の中では、中央で数的有利を作り出すことが求められる。

川崎が見せた脆さは、ボールを保持するチームにとって永遠の課題となる「試合のコントロール」と密接に関連している。ボールを保有するということは、当然能動的に試合に関与出来るということだ。しかし、理想形とは異なる「守備側に選択肢を削られ、コントロールされる」ということも頻繁に起こってしまう。鹿島が得意としているのも、正にこれだ。

川崎が脆さを露呈するのも、ボールを持っているのにも関わらず窮屈なプレーを強いられる時だ。三好の投入で試合が一変したように、彼らは「中央に複数人が進出する」形となれば抜群の破壊力を発揮できる。

一方で、「どのようにチームとして、ボール循環の道筋を増やしていくのか」というのが大きな課題だ。中央を効果的に使うためには、両ボランチに頼り過ぎない循環ルートが必要になる。

 

風間監督が名古屋グランパスに去り、鬼木コーチが昇格する川崎は天皇杯で味わった屈辱を晴らすことを目標に新たなシーズンに挑むことだろう。

鹿島石井監督と共に積み上げた経験を武器に、リーグ制覇を目指す。スペインで躍動するラス・パルマスを率いる指揮官であり、チェスの名手としても有名なキケ・セティエンは「フットボールは、チェスから学ぶことが多くある」と述べる。

その1つは、間違いなく中央の重要性だ。どのように中央を奪うのか、という駆け引きに注目して見ると、来季のJリーグが少し違って見えるかもしれない。

Photos by takegola

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About yuukikouhei

yuukikouhei
結城康平: DEAR Magazine 編集部で「KNOW」カテゴリ中心に編集、企画担当。やりたい事だけは沢山あるので、Dear Magazineと共に色々なことに挑戦していきたい。ジャンル問わずなんでも書く系。サッカー批評、Qolyなどに寄稿経験有り。今一番欲しいものは、新しいノートパソコンと可愛い小動物を飼える環境。好きなアーティストはエジンバラ出身のBlue Rose Code。

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