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Gary Curneen 公式サイトより
Gary Curneen 公式サイトより

UEFAのA級コーチが語る、未来のなでしこの「ボールを運ぶ」技術

ペップ・グアルディオラがチームの哲学について語るとき、パスによってボールを「運ぶ」や「前進させる」といった言葉を使うのは興味深い。

日本ではボールを「繋ぐ」という表現が使われることも多いが、ボールを前に動かすことが最終的な目的として理解できていないと、パスを繋ぐだけで目的のないサッカーに陥ってしまう。グアルディオラに言わせれば、「パスを目的としたパス」は愚の骨頂だ。

しかし、ボールを「運ぶ」技術について学ぶために、わざわざバルセロナを見る必要はないのかもしれない。UEFAのA級ライセンスを保有し、指導者に向けた著作でも知られている期待の若手指導者ギャリー・カーニーンが注目したのは、未来の日本を背負う女子チームだった。

彼は、未来のなでしこが世界王者である「女子サッカー大国」アメリカのユース世代を遥かに超える能力を持っており、欧州の指導者も注目すべきチームだと言う。それは一体、何故なのだろうか。本人に直接語ってもらった。(前文 結城康平)

 

ボールを「運ぶ」重要性。

 

現代フットボールにおいて、中盤の選手にとって「ボールを前に運ぶ」ことが出来る能力が「違い」を作ることを疑う余地はない。トップレベルの指導者達はパス成功率だけに固執するのではなく、全てのパスが同じ価値を持つわけではないことを理解している。

例えば、相手のDFラインと中盤の間にいる選手への縦パスは、攻撃的なMFからCBへのバックパスよりも価値がある。

守備のシステムは高度に組織化され、距離感はコンパクトになっている。だからこそ、緻密な守備組織を「動かす」ことが出来るチームは攻撃において多数の選択肢を生むことが出来る。

U20女子W杯、日本代表チームとカナダ代表の試合は非常に私にとって印象的なものだった。日本のプレイヤー達は、技術的にも戦術的にも様々な選択肢を持っており、中央の狭いエリアでボールを受けた際に常に直面する問題を解決し続けた。

 

アメリカが彼女たちのような選手を生み出せない、2つの理由。

 


Gary Curneen 公式サイトより

私は、彼女達がアメリカのユース世代を遥かに超える能力を持っていると考えている。その理由は、主に次の2つだ。

1, アメリカでは、選手たちがパスとトラップの基礎を習得した後、あまりに多くの孤立したパス練習を繰り返してしまっている。クラブや学校の部活レベルでは当然となっている下の図のようなパス練習は、自分に向かって真っ直ぐに蹴られたパスを止めることの繰り返しでしかない。こういった練習では自然に角度を変える技術は身につかず、試合の中でボールを受けて打開する技術も磨かれない。


http://www.academysoccercoach.co.uk/

2, 戦術的なレベルにおいてアメリカでは、「システム」ではなく「フォーメーション」への固執が深刻な問題となっている。これら2つの違いは、動きとポジションが相手の形、ボールの位置によって変わっていくか否か、という点だ。

サッカーというスポーツが問題解決のゲームに近付いていく今、選手達には様々な問題に対する適切な解決法を選ぶ能力が求められている。

もし選手達に単純な動きだけを練習させていた場合、彼らはその動きを試合でも繰り返すことになる。そうなってくると、レベルの高い相手には通用しない。

だからこそ、システムを再現した練習の中で様々な変化に慣れさせる必要があるのだ。

 

動画で学ぶ、彼女たちの「強み」

 

では、動画を見ながら解説を進めていきたい。

まず、CBへのバックパスを使った「前進」だ。ボランチの選手が相手FWに近い位置で、受けたボールをシンプルに返す。そのパスに相手FWが反応してボールを奪いに来ると、無理をせずCBはもう1人のCBへ横パス。フリーの状態で受けたCBがボールを持ち上がったのに連動して、ボランチは空いたスペースに動きなおしてもう一度受ける。

この一連の動作によって、最初のパスを受けた時には相手を背負っていた中盤の選手が前を向く時間が生まれる。一度前を向けば、更に相手の意識を引き付けることが出来る。前を向いた後に出すバックパスを受ければ、CBが良い状態でボールを持つことが出来る。

逆サイドでも同じように中盤に当て、ボールを戻す。この動きを繰り返す中で、自然とDFラインが高い位置へと動いていく。これによって、コンパクトな状態を保ちながらボールを高い位置へと運んでいくことが可能となるのだ。

2つ目の技術は、1人が空けたスペースへと入り込む連動だ。中盤が下がって空けたスペースにもう1人が入り込むことで、「横関係」だった2人が「縦関係」へと流動。横関係を保ったまま相手が守ろうとすれば、動画のようにフリーの状態を作り出せる。

3つ目の技術は、「動かない」ことでスペースを作り出すことだ。相手が動きながら自分をマークしているとき、相手よりも速く動くだけが「外す」方法ではない。相手が動いているところで止まってしまえば、時間とスペースを生み出すことが出来る。

スペインの選手は、こういった受ける技術が非常に巧い。イニエスタは、速くも強くもない。それでもボールを受けるとき、彼の周りにはスペースが生まれている。こういった基礎を極めることが、彼の真髄だ。

更にそれを応用した「味方の位置を意識して受けに来ることによって、ダイレクトでスペースを使う」プレーでの崩しも多く見られる。走りこむ味方によって生まれたスペースを意識し、相手が複数人で囲んでくれば無理をせずにボールを少ないタッチで動かす。

「周りの動きによって味方に余裕とスペースを生み出し、その余裕を無駄にせずにボールを動かす」ことが彼女たちの強みだ。

周りが作った時間を無駄にすることなく、それを淀みなく次のプレーへと繋げる。リズムが途切れることなく、ボールを運んでいくのだ。彼女たちは常に問題を解決する能力を見せた上に、そこに強引さはなかった。非常に自然に、問題を解決し続けたのである。

 

UEFA、A級ライセンス保有者が語る「育成の未来」

 

ビデオでも見ることが出来るように、日本代表の選手たちは技術的にも優れており、試合の中で「戦術的な流れを先読みしながら」ボールを前線へと運ぶことが出来ていた。試合のスピードを考慮すれば、生半可な練習ではこのチームを育てることは出来ないだろう。それほどに、ボールを運ぶために複数人で状況を共有したプレーは難しい。

私は、ユース世代の育成に新たなる基準が生まれ、指導者達が伝統的な練習法を見直すことを願っている。「選手たちが試合の中で直面する問題を本当に理解し、それを正しく解決するための練習をデザインすること」でしか、進化していくフットボールに対応出来るトップクラスの選手は育たないのだから。

 

前文・動画解説テキスト編集:結城康平
動画製作・分析:ギャリー・カーニーン

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About Gary Curneen

Gary Curneen
Gary Curneen(ギャリー・カーニーン):アメリカで育成年代・女子チームの指導に携わるアイルランド人指導者。UEFAのA級ライセンスをアイルランドで取得しており、「現代のサッカー指導者のためのポジション別練習法」「現代のサッカー指導者のための4次元的アプローチ」などの著作を発表し、指導者を中心に高い評価を得ている。

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