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サッカーの「創造性」とは何か?南野拓実の「思考速度」から導き出すヒント


「創造性」。フットボールの世界では良く聞かれる単語であり、そういったアイディアに溢れる選手をイタリアではFantasista-ファンタジスタと呼ぶ。しかし、その単語が指す意味は非常に曖昧だ。創造性のあるプレーとは、相手を欺くヒールパスなのだろうか。それとも、華麗に守備陣を切り崩す華麗なシザースなのだろうか。この答えのない、哲学にも近い問いにひとつのヒントを与えてくれるプレイヤーがいる。「南野拓実」だ。

美しいデザインと共にフットボールを語る、知られざる名ブログIBWM(In bed with Maradona)が発表した、「世界で活躍するであろう100人のベストプレイヤー」。その中に南野が含まれていたことを知る人は、多くないかもしれない。ヨーロッパのフットボールメディアでは、アジアやアフリカといった国々の才能に関して、無頓着で間違った情報や表面的な情報に溢れたものも多い。


しかし、「マラドーナと一夜を」という独特の名を冠するメディアは「南野拓実」というプレイヤーを真に評価し、緻密な分析で彼のプレーを評価した。アジアの才能として括るのではなく、世界の様々な才能と同列に。多彩な色の輝きがちょうど100個放り込まれた宝石箱は、雑然としていながら調和性も感じさせた。


 本稿では、Opposition analyst(相手の研究をする役職)としても活躍する指導者 Jed Davies(ジャド・デイヴィス)氏による考察を中心として取り上げながら、南野の「思考速度」をヒントに「創造性」について考察していきたい。


「創造性」と「練習」。ぶつかり合う2つの理論


スコットランド人コーチで、以前AD Alcorconでコーチを務めていたKieran Smithは、バスケットボールを例に出しながら議論を進めた。

「創造性とは、思考をしない状態で発揮される本能的なもので、それまでに一度も挑戦したことのない動きの場合もある」

 彼の意見を考慮すると、同じ動きを繰り返すような練習をすることは創造性を制限する結果を呼ぶことになるだろう。ヒールキックが練習で繰り返し行われていた場合、ヒールキックは既に即興的なプレーではない。本能を制限するような行為は、創造性を制限することに繋がり得る。クライフターンも、練習の中で何度となく行われたものであれば創造的なものではない。最初にヨハン・クライフが即興的に使った時こそ、創造的な瞬間なのだ。


 一方で、イングランドのMKドンズでアカデミーを指導し、現在はイングランドフットボール協会で育成年代の指導に関わっているDan Miccicheは反復的な練習が創造性を制限するという発想を否定する。


 ドイツサッカー協会のDaniel Memmertが2010年に発表した研究によれば、創造性の向上パターンは、選手によって大きく異なる。多様なパターンを示す創造性の向上において、ある一定の練習が全ての選手にとって効果的とは限らないのである。また、ドイツサッカー協会が非常に重要視する言葉の1つに
「Tactical Creativity(戦術的創造性)」がある。この戦術的創造性は、「分岐的戦術思考」とも呼ばれる。問題解決において独自の方法を使っていくことや、統計的に多く見られない選択をすること、などが分岐的戦術思考となる。この戦術的創造性と戦術的知識の両方が必要となるのがサッカーというスポーツであり、ドイツサッカー協会は両方を総合的に向上させることを目指している。


 ドイツの研究やDan Miccicheの思想は、多くの戦術的思考を習得することによって、柔軟で創造的に様々な状況に対応する力を得ることが出来るという発想にも繋がる。必ずしも創造性とは、戦術知識と対になるべき概念ではない。得た知識をどのように使うか、というのも創造的な土壌によって支えられる。得た技法をどのように組み合わせるかで独創的な絵を描き上げる画家もいるだろうし、同じ曲でも表現の工夫によって全く新しい世界を生み出してしまう指揮者もいるだろう。

リオネル・メッシの、「動作」という創造性


 デイヴィスは様々な文献を紐解き、バルセロナの怪物メッシが「リーグにおいて最もボールロストする選手である」というデータを引用しながら、彼なりの結論に辿り着いた。「
テクニックではなく、動作こそが創造性なのだ。創造性のある選手は、自らと相手DFが『問題解決』をする必要のあるポジションでプレーすることが出来る」

 要するに、相手のDFが問題を解決しなければならないポジションとは、相手DFが迷うようなポジションだ。SBとCBの間に立てば、どちらが対処すべきかという迷いが生まれる。そして、攻撃的な選手は自らが問題解決出来るポジションへと侵入する。自分が選択できるパターンが少ないような状況ではなく、それが多いような状態を作り出すのだ。彼らはシュートだけしか撃てないボールの持ち方をせずに、パスやドリブル、シュートの全てが可能な状態でプレーすることによって、相手の迷いを更に加速させる。メッシのボールロストが多いのは、自らも難しい状態でプレーしているからだ。ボールをロストする寸前でプレーし続ける超絶技巧は、当然相手の迷いを生む。奪えるかもしれない、という欲が常に命取りになる。そのミスを恐れない姿勢こそが、彼を世界一の選手へと押し上げていると言い換えても差し支えないだろう。

創造性とは、思考速度である


 さて、デイヴィスの論旨には触れた。ここから、筆者は一歩踏み込もうと思う。「問題解決が出来る状態に自らを置き、相手DFに問題解決を強いる」。そのために必要になるものは何だろう。

 それは「思考速度」だ。コンマ一秒の思考における迷いは、相手DFが距離を詰める時間を生む。相手が距離を詰めている状態では、当然自分のプレーは制限される。パスを出したくても出せない、となればドリブルをせざるを得ない。同時に、相手DFにとっての選択肢は狭くなる。パスが出せない状態なら、相手に身体を当ててボールを奪い取ればいい。逆に相手を思考速度で上回れば、無数の選択肢がある状況に自分を置きやすくなる。つまり、「思考速度こそが、創造性と大きな関わりを持つ」というのが本稿における主張である。勿論、思考速度で相手を上回った状態でボールロストをすることもある。しかし、デイヴィスの論理に沿って考えれば、それは創造性がないということには繋がらない。密集地を抜け出すメッシのドリブルは、常に相手よりも先に思考することによって可能となる。

南野拓実の創造性。欧州で磨かれた原石。


 この「思考速度」こそ、南野拓実がオリンピック予選で見せた眩い輝きだった。とてつもないゴールを連続で決めた中島翔哉でも、値千金のゴールで窮地に陥ったチームを救った原川力でもなく、 筆者が目を奪われたのは彼だった。勿論、南野はチームの中心として求められただけの結果を出すことは出来ていない。目に見える結果には恵まれず、出場時間も多くはなかった。しかし彼が見せた思考速度は、オーストリアの強豪で鍛えられた大器の片鱗であり、今後も期待せざるを得ないものだった


1つ、イラク戦での彼のプレー例を紹介しよう。

GK櫛引からのロングボールが南野の斜め後ろへと流れる。彼はイラクの選手と並走してこのボールを追うのだが、追いながらもボールの置き所を考えている。

恐らく、相手の選手はバックパスを予期したはずだ。走っている方向的に一番簡単なプレーは後ろに預けるようなプレー。だからこそ、相手選手はバックパスのコースを厳しく潰している。しかし、ここで南野は強引にワンタッチで反転。

相手の左サイドバックもこの動きは予想しておらず、明らかに距離が遠い。思考速度を生かして、迷いなくボールを持ち出す。相手のDFがカバーに来られない距離にいることも見越して、相手に問題解決を迫る。SBは「自らボールを奪いに南野に近づく」か、「競っているDFがボールを奪取することを見越してカバーする」か、という判断をしなければならない。


 これこそ、彼の強みが出たプレーだと言える。
このまま狙ったクロス自体は精度が十分ではなかったものの、「クロスを上げる状態まで持っていくことが出来たこと」を評価すべきだろう。これが、南野が見せた「創造性」だ。ヨーロッパで鍛えられたことで、その思考速度は更に磨かれた。


 IBWMは南野を「速く、エネルギーに溢れ、流動的。試合を非常に丁寧に繋ぐことが出来る」「ボールを保持している時、いない時に関わらず、素晴らしい位置に走り込むことが出来る」と描写したが、このプレーにおける
「断続性のなさ」は思考速度によって支えられているのではないだろうか。また、その動き出しにおける言及はデイヴィスが再定義した「創造性のある選手」とも合致する。オリンピックの試合中に南野の思考速度は何度となく、周りの選手との不具合を招いた。だからこそ指揮官は彼でなく、組織との相性がいい選手を選択したはずだ。実際、その指揮官の決断は間違っていなかった。それでも、南野拓実が見せた思考速度をチーム全体が共有した時、そのチームに起こる革命に期待してしまう自分がいる。

 ドルトムントで鍛えられた思考速度で勝負出来る香川真司、動き出しの賢さでいえば世界トップレベルに近づきつつある岡崎慎二、戦術の国イタリアで存在感を発揮し始めた本田圭佑。彼らの思考速度が高いレベルで噛み合った時、「創造性」がある攻撃が見られるのではないだろうか。勿論それは整備されて走りやすい道ではないが、目指すべき道でもある。


“Think Twice”がオリコンのトップを飾った時、日本で産声を上げた”と冒頭でIBWMに描写された南野拓実。「熟考」を意味する題名の歌がイギリス各地で奏でられた時、極東で産まれた青年は、思考速度を武器に欧州で奮闘している。

 

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About yuukikouhei

yuukikouhei
結城康平: DEAR Magazine 編集部で「KNOW」カテゴリ中心に編集、企画担当。やりたい事だけは沢山あるので、Dear Magazineと共に色々なことに挑戦していきたい。ジャンル問わずなんでも書く系。サッカー批評、Qolyなどに寄稿経験有り。今一番欲しいものは、新しいノートパソコンと可愛い小動物を飼える環境。好きなアーティストはエジンバラ出身のBlue Rose Code。

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Photo credit: E. Krall via VisualHunt / CC BY-ND

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