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日本サッカーは、何がガラパゴス化しているのか?

©iStockphoto.com/cmcderm1
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サンフレッチェ広島のフットボールを見ていて、不思議なものを見ている感覚に襲われた。組織的で非常に欧州の最前線を思い起こさせる後ろからの組み立てに加え、サイドを広げて
2シャドーがゾーンの間で受けにくるという相手の守備が追いつかない洗練されたシステム。日本代表の常連として活躍する選手がいなくても、その組織力によって素晴らしい結果を残した業績も称賛されるべきだ。しかし、どうしても腑に落ちないものがあったのだ。今回は、その違和感から「日本サッカーのガラパゴス化」について考察していきたい。

 
現代的なフットボール。進む、攻守の流動化

 
 最も広島のフットボールで違和感があったのは
「ボールを奪うこと」に関する部分だ。広島の様に後ろからゲームを組み立て、ポゼッションしながら試合を進める傾向のあるチームは欧州の最前線でも少なくない。今季絶好調のトッテナム・ホットスパーズやマンチェスター・シティなどは、その筆頭だ。彼らのようなチームは、「攻撃と守備の間に存在する瞬間」を重要視している。例えばユルゲン・クロップの哲学について、PSVやポルトを経てリバプールでユースを指導しているPep Lijndersは「パスを繋いでいて相手に奪われた瞬間、多くの選手がボールの周辺に残っている。その瞬間に激しいプレッシャーをかければ、迅速にボールを奪い返すことが出来る。だからこそ、攻撃の時に守備的な思考もしていかなければならない」と説明した。

 バルセロナとペップ・グアルディオラがバルセロナで革命をもたらしたことによって、攻撃と守備をどのように一体化させるかを重要視する時代がやってきた。ボールを奪われた時のリスクを減らすようなポジショニングでのパスワークを構築することによって、選手達はボールをロストした際に一瞬で襲い掛かることが出来るようになった。それは同時に体力を浪費せずに、奪い返して攻撃を継続させることにも繋がってくる。攻撃と守備が流動化して、前からのプレスとポゼッションフットボールがある程度一体化しつつあるのだ。ポゼッション時に相手を切り崩すために作られた密集は、相手の自由を奪う密集にもなり得る。

 
サンフレッチェ広島のリトリート

 
 一方で、広島は非常にリトリートへの意識が高い。完璧にボールを繋ぎ、相手の前プレをいなすことにも長けている組織的なチームながら、奪われた瞬間に相手に襲い掛かるようなことは多くないのだ。良い奪われ方をしても、チーム全体が非常に迅速に下がってブロックを形成する。前から奪いにいく場面が無い訳ではないものの、非常に限定的な場面でプレッシャーをかけていく。

 その違和感は、必ずしも悪いことという訳ではない。実際そのブロック形成が強固な守備を築き上げ、Jリーグ制覇の原動力となった。クラブW杯では南米王者相手に粘り強い守備を見せ、最後まで相手を追い詰めた。Jリーグ優勝チームながら「弱者の戦術」でも闘える。その特殊なチームは、指揮官である森保一によって作られたのだろう。

10年、11年と新潟でコーチをしていました。外から広島を見た印象は、やはり攻撃は素晴らしいと。もし自分が、このチームの指揮を執るようになった場合、どうするか。自分の経験上、守備面からアプローチすべきだろうとの思いはありました」

 このコメントからも解るように、彼が意識的に修正したのは守備の部分だった。ミハイロ・ペトロヴィッチが作り上げた欧州的ながらも「リスク管理が出来ずに、守備に弱さを見せる」チームに少しずつ守備意識を浸透させていったのだろう。こういった例は、欧州のクラブにおいても非常に珍しい。前任者のチームを基盤にしつつ、自らの哲学でチームを向上させる。簡単に聞こえるが、これはとんでもなく難しいことだ。その難しい状況を解決した指揮官の手腕によって、広島は特別なチームとなった。ユベントスでアントニオ・コンテのチームを進化させたマキシミリアーノ・アッレグリのように、名将は完璧に作られたように感じられるチームにも自分流のアレンジを加え、より良いものに変えてしまうのだ。

 彼の優秀さは、「チームの守備を改善する上で、ある意味では欧州的なハイライン&ポゼッションと相反することもある概念」をチームの全員に教え込んだことにある。しかし彼が非常に優秀だったが故に、そのチームは歪な部分を持ったまま完成してしまっているのだ。

 
丸岡満の苦悩から見えてくるもの

 
 欧州遠征によって才能を認められ、ボルシア・ドルトムントでの武者修行を終えてセレッソに戻ってきた
MF。丸岡満は、インタビューにおいて非常に興味深い発言を残した。

「やっぱりドイツと日本じゃ守備のやり方も違うんです。ドイツは前に取りにいく時は全員で行くし、自分がはがされても次が来るから『はがされてもいいから行け』って感じで思い切りいけるんです。」

「でも日本では、自分のところではがされたらダメじゃないですか。止まらないといけないし、相手に付いていかないといけない」

 彼が示唆する「日本とドイツのサッカーにおける差」。これは、ある意味でサンフレッチェ広島の変化にも繋がってくる。粘り強い守備を目指した結果、前からのプレスではなくリトリート重視へと舵を切ることになった。それは、丸岡選手が言うように「相手についていかないといけない」という部分に繋がってくる。どうしても、前から激しくいこうと思ったら「粘り強くついていくこと」を捨てなければならない。その意識こそ、日本サッカーのガラパゴス化へと繋がってくる。

 
「日本人らしさ」とガラパゴス化

 
 これは、ある意味で「日本人らしさ」にも関連してくる部分なのかもしれない。プロ野球元日本ハムファイターズの指揮官トレイ・ヒルマンには、有名な逸話がある。彼は、統計データなどを持ち出して日本人選手に「送りバント」をやめさせようと考えていた。しかし選手達からの猛烈な反対によって、指揮官は最終的に妥協することになる。彼は日本人選手のバントに対する意識について、このように述べた。

「バントは日本人の『免罪符』だ。大量得点のチャンスをむざむざ見過ごし、失敗を回避するための弁解でしかない。選手たちはある種の安心感を得られる。『よし、危険を冒すより、堅実に1点取っておこうぜ』とね」

 リスクを恐れているという点で、「送りバントを好むこと」と「前からのプレスを厭うこと」には共通点がある。個々が責任感を持つ意識が強いからこそ、周りのサポートに頼ることを嫌がっている側面もあるのかもしれない。例えば野球では、「自分が凡退しても、他の選手がきっと打ってくれる。思いっきり勝負だ」という思考ではなく、「チャンスを潰したくない。ここは送りバントで安全に」という思考になってしまう。これは、サッカーにおいて「自分がはがされても、周りがサポートしてくれるから思いっきり奪いにいこう」という思考ではなく、「ピンチを招きたくないから飛び込みすぎないように守ろう」という思考になっているのと似ている。

 
Jリーグの「進化」に向けて

 
 そういった特性が、ある意味で日本サッカーのガラパゴス化を生んでいる原因なのではないだろうか。「選手が後ろを信頼して連動してアタックにいけないこと」は、大きな問題だ。「前から飛び込んで外されてしまうこと」以上に、「選手が前から思い切ってボールを奪いにいくことに恐怖を感じてしまっていること」がリスクだと理解しなければならない。サンフレッチェ広島が
ACLの舞台で闘っていくには、間違いなく必要となるのがこの部分だ。

 リトリートに慣れてしまうことは、良いことではない。人海戦術で守っていくことは、最低限の人数で攻撃を食い止められるDFが育ちにくい環境を作ってしまうことになり、走行距離も長くなりがちだ。相手に強烈なストライカーがいた際にも、失点のリスクは上がっていく。

 「引いて守ること」と「一気に連動して襲い掛かる」ことのバランスを保つことは、闘将シメオネ率いるアトレティコ・マドリードの様な「守備で相手をコントロール出来る」チームを生み出す。今や状況に応じてバルセロナもリトリートするし、レスター・シティも前から襲い掛かる。欧州の最先端では、守備の使い分けは「特別」なものではなくなりつつあるのだ。

 その辺りのバランスを整理するという難しいタスクに挑むことで、名将森保一は日本サッカーにおける意識を変えられるだろうか。そして当然、全てのチームが変わっていかなければならない。ガラパゴス化とはいっても、攻撃面の洗練は確実に進んでいる。守備での欧州基準が浸透すれば、Jリーグが更に面白くなるのは間違いない。

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About yuukikouhei

yuukikouhei
結城康平: DEAR Magazine 編集部で「KNOW」カテゴリ中心に編集、企画担当。やりたい事だけは沢山あるので、Dear Magazineと共に色々なことに挑戦していきたい。ジャンル問わずなんでも書く系。サッカー批評、Qolyなどに寄稿経験有り。今一番欲しいものは、新しいノートパソコンと可愛い小動物を飼える環境。好きなアーティストはエジンバラ出身のBlue Rose Code。

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